●出撃
次の日の朝、門限の守れなかったグレイ・ルース準尉はケイス・ウィンタ
ーホース大尉に殴られ、カイン・アベル中尉にたっぷり絞られ、シン・イチジ
ョウ中尉に慰められた。
そう言う訳で、グレイは落ち込んでいた。
「なに・・・・それはほんとうか!」
廊下を歩くルースの耳にホン・ロン少尉の声が聞こえる。ホンロンは携帯
通信機で何者かと話していた。ルースはとっさにホンロンの視界から身を隠
し、反射的に聞き耳を立てた。
「それは本当かアリエス!」
・・・・アリエス。ルースはその名を聴くだけで胸が苦しくなる。申し訳ないとい
う気持ちと、感謝の気持ちが入り乱れ、切ない気持ちになる。
「分かった。アリエス。お前は秘書としてケネディーから離れるな。俺はMSで
向かう。
っち、イディナロークめ。議員を暗殺するなんて・・・・」
ホン・ロンはそう言うと、その場を走り去りMSデッキの方へ向かう。
ルースはそこで呆然として、自分がどうすべきか分からなくなり立ち往生する。
「お、俺はどうすれば良いんだ?」
ルースはそのまま頭を抱え込む。
「まだ落ちこんでんの? ルース」
頭を抱えているルースにジャネット・ラス少尉が緊張感のない声で話しかける。
不意にその声がアリエスの言葉を思い出す。
『ルース。考えるだけでは駄目。行動に迷ったとき、自分を信じなさい』
「そうだ。俺は」
ルースは右手を握りしめてそう叫ぶと、MSデッキに向かった。
<艦長! ホンロン少尉がMSの出撃要請が出ています。それと可能な者か
らMSを援護によこして欲しいとのことですが!> ブリッジに響くオペレーター
の声にリュウ・カノウ艦長は眉をしかめる。
(だが、テロリストはこちらの都合など気を使うわけは無い・・・か)
カノウ艦長は、嘆きつつ、オペレーターにMSの全機出撃命令を下す。
「グレイ・ルース準尉、出ます」 ちょうど、カノウ艦長より出撃許可が出たと同時
にルースはMSデッキに到着した。メカニックも緊急事態と言うことと、部隊編成
されて間もないことからろくなチェックもなくルースをMSに乗せた。
ルースはホン・ロンに追いつくためにZAIRかZRFを希望したが、調整に時間
がかかることを理由に断られた。
何よりも、ホンロン少尉が出撃許可が出たら、MSデッキに来た順にMSに乗
せるようそう言っていただけに仕方がないと言えば仕方がない。
「準尉だと? 予備パイロットじゃないか!」
メカニックが自分のしたことに後悔しつつ嘆くようにそう言った。
しかし、その声はMSの出撃のバーニアの音でかき消されていた。