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●月の裏側での攻防戦
一方、ここは月面である。
月面に浮かぶのは3体のMSである。このMSはディノファウストαと言
い、メッサーラタイプのMSである。ディノファウストαのコクピットに長身の
男がノーマルスーツを着て無機的に光るレーダーを眺めている。「予定通
りだ。あとは、連邦の犬が釣れればメニューはそろうわけだ」
「ねぇ、イディナローク。パイロットが可愛い男の子だったらもったいないわ」
妖艶な女性の声がコクピットに響く。
「私語は慎め。作戦中だ。ドラコーンを見習え」
「ふん。もともと無口なだけじゃない」
女性の声は不機嫌そうに言うと、そのまま電話をいきなり切るようにプッ
ツリと通信を切る。
「よし、ターゲット確認。いいか、作戦の確認をする。ケネディー議員への軍
事的圧力と、ホン・ロン少尉の殺害」
「わかってるわよ」
「・・・・」
「よし、行け!」
3機のディノファイストαは背中のバーニアを光らせ、ターゲットの威嚇射撃
をしつつ、シャトルへ向かった。
ここケネディー議員の乗るシャトルの中。 シャトルは、外部からの威嚇射
撃のために大きく揺れる。
「な、何が起こったんだ?」
「ケネディー議員。落ち着いて下さい」
とっさにアリエスがケネディーをなだめる。
「フッ、君はいつでも落ち着いているな。君は強い女性だよ」
「鈍感なだけですわ。連邦の方には護衛の要請はしてありますし、まもなく到
着するでしょう」
嘘である。実際の連邦の護衛部隊との合流時間は半日以上も先であるし、
この空域で襲撃される可能性は0に近かったはずなのだから。
しかし、アリエスの嘘は、ケネディーの安心感へ繋がり、パニックまで引き起
こすことはなかった。自分の命が危なくてパニックにならない正常な人間など
いるはずがない。
バキューン!!!
シャトル内で発砲された。発砲したのはシャトルのパイロットである。
「ケネディー議員。あなたはやりすぎました。このような事態がいつでも起こり
うることを警告するために、一時的にこのシャトルをジャックさせていただきま
す」
パイロットはなかば自分に陶酔したようなうつろな目でそう勧告する。
「も、目的は何だ?」
「あなたの発言をもう少しだけ少なくすれば良いだけです。そうすれば素直に
撤退いたしま・・・・んぐ」
パイロットの言葉を遮ったのはアリエスのみぞおちの一撃だった。アリエスは
そのままパイロットの金的に蹴りを加え、パイロットを押さえ込む。
とても非力な女性が、大の男をこのように押さえ込むのは信じられない光景
だが、現に男は押さえ込まれ動けずにもがくだけである。
「これは、ジュードーの押さえ込みといってね。もがけばもがくほど苦しくなるわ
よ」
アリエスはパイロットに警告するが、その押さえ込みを解かねばならない事
態が起こった。ケネディーのボディーガードがアリエスの頭に黒光りする鉄の
塊が押し当てられたのである。
「ハッ、私とケネディー議員以外はみんな敵って訳ね」
アリエスは素直にテロリストに幸福の意味を込めて両手を上げる。
テロリストは警戒しつつ、アリエスの両手に手錠をかけたその時、尋常なら
ぬ衝撃が走る。
「な、何事だ!」
衝撃の原因は、シャトルの外にあった。 ホンロンの乗るサーディガンが到
着し、3機のディノファウストαと交戦中だった。
「っく、間にあったが、ここでやられては意味がない」
ホンロンは口の中で毒づくと、ビームライフルの引き金を引く。
狙いは悪くないのだが、ディノファウストαのパイロットの腕が良く、ことごとく
光の線を引くだけで、命中しない。
「悪くない腕だが、まだまだだな。終わりだ」
ディノファウストαのパイロットがとどめを刺そうとしたとき、レーダーに予定外
の光が点滅する。シャトルに近づくMSを知らせているのだ。とっさに、向きを
変えると、もう1機のサーディガンが猛スピードでシャトルと接触する。いや、接
触という生やさしいものではなく衝突がより的確な表現だろう。
シャトルと衝突したのはルースの乗るサーディガンである。
シャトル内では皆が倒れ、そのチャンスを生かしたのはアリエスだった。アリ
エスは正面の男を思いきり蹴り上げて拳銃を弾き、顔面に思い切り頭突きをし
て、1人目をノックアウトする。 そして、味方のはずだった横たわるボディーガ
ードに手錠でつながれ両腕をたたきつけ、うづくまる隙にもう一度蹴りを加える。
が、状況が不利すぎた。もう1人のテロリストがアリエスに発砲したのだ。容赦
ない弾丸はアリエスの方を貫通し、赤い液体が滴る。
「これで終わりだ。じゃじゃ馬さん」
再びシャトルの外でも動きがあった。
ディノファウストαがシャトルと衝突するサーディガンを確認すると、すかさず照
準をルースの乗るサーディガンに合わせる。
ホンロンはそれに気づくと、すかさずその射界を塞ぐように立ちふさがるが、
すでにディノファウストαから破壊力の持つエネルギーの塊の発射スイッチは押さ
れた後だった。
サーディガンはそのエネルギーに耐えきれずMSの体の中にあるエネルギー
を暴発させる。一時の沈黙は光の爆音に変わり、その姿を保つことができなくな
る。
「アリエス・・・・生きるんだ」
・・・・それが・・・・ホンロンの短い生涯、最後の言葉だった・・・・。
「う、うわーーー!」
ルースはその光景を目の当たりにして叫ぶことしかできなかった。初めて目の
当たりにする戦場での仲間の死。それがこれほど苦しくやるせないものだとは若
いルースに想像できるはずもなかった。
その爆発の光にまぎれてビームキャノンの光がディノファウストαを襲う。「なに?
援軍だと? 速すぎる」
そう呟いた頃には、白と蒼のカラーリングのZRFが目の前にいた。ZRFは3機の
ディノファウストαにビールライフルを撃ち込むと、すぐさまビームサーベルを抜き、
隊長機と思われるディノファウストαに切りかかる。「は、速い!」
ディノファウストαは、ZRFのビームサーベルをかろうじてかわすが、MSの右手
を代償とした。「イディナローク! ここは一時撤退がいいよ。分が悪すぎるし、あ
の新型ガンダム。速すぎる。他に同じようなタイプが2機来るよ」
「ぐ、不意をつかれたとは言え何とも無様な・・・・まぁ、良い目的は達成されたんだ。
それにしても・・・・
それにしても、連邦には噂のアムロ・レイの他にもこんな奴がいるのか」
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