●ケイスの過去
ケイス・ウィンターホースは、その夜、ウィスキーをグラスに溢れそうに
なるまで注ぐと、ボトルを机におき、グラスを一気にあおった。
「ふぅ。こればっかりは、医者に止められてもやめられないな」
ケイスはそう呟くと、部屋の隅にある書棚に置かれている、写真立てを
見る。
写真には若かりし頃の、真新しい軍服を着たケイス・ウィンターホース、
リュウ・カノウ、ケネディーらが1列横隊にならび、敬礼している写真があ
った。軍人学校の卒業写真なのだろう。
柄にも無く、緊張しているケイスのとなりには、それを横目に笑っている
男がいた。
「ゲイツ。おまえは今、どこで何をしているんだ?」
ケイスは、写真の中で自分を笑う男に話し掛けていた。
1年戦争。宇宙世紀0079年に勃発した、地球連邦軍とジオン公国との
戦争である。0079年の1月3日から、同年12月31日、ア・バオア・クー
の攻防戦の連邦軍の勝利によって終結し、1年間という期間で終結した為、
後にそう呼ばれるようになった。
この戦争は、宇宙移民開始によって、宇宙世紀とてから人類がはじめて
経験する戦争であり、モビルスーツという新兵器が使用されたという、これ
までの戦争を変えた大きな歴史的な意味合いが強い。
そんな1年戦争のMSパイロットは、当然のごとく、みな新米パイロットであ
った。
その頃のケイスとゲイツは、連邦軍のMSパイロットとして、戦場を駆け抜
け、互いにMS操作技術と撃墜数を競い合ったライバルだった。
時には笑い、時にはお互いの感情を激しくぶつけあい、そして、戦場では
ともにMSパイロットとしての名声を上げていった。
そんな、二人に別れが訪れたのは、最後のア・バオア・クーの攻防戦だっ
た。
「ゲイツ。おまえは、あの時使われた味方を巻き込んだソーラーレイの光を
見て、連邦のやり方に愛想をつかせたんだったな。覚えているぜ。あの時の
おまえの言葉を。
おっと、いけねぇ。写真相手に話し掛けるなんて、俺にもヤキがまわったか?」
ケイスはどの部下にも見せないテレ笑いをしていた。