●謎のMS
「ふん、あれはMSの性能だけじゃねぇな」
大活躍のドラゴン小隊を援護しながら、ケイスは呟く。
「若いもんのおかげで、この歳よりはだいぶ楽が出来そうじゃのう」
ジュゼッペが横槍を入れる。ケイスはジュゼッペの言葉に苦笑した。
「大尉、エリザの様子が変です」
不意にジャネットから通信が入る。
「なんだと、まぁ、民間人だからな。仕方ない。今のところドラゴン小隊の
活躍で余裕がある。今のうちにアイアンホースに連れて行け」
ケイスの指示にジャネットは頷く。ケイスはそのままブレード小隊に通信
する。
「アベル中尉、聞こえるか」
「なんでしょう?」
ウィンターホースのMSコクピットにカインの顔が映し出される。
「悪いが、ブレード小隊をもう少し前に出してくれ。エリザを下げる。ジャ
ネットを援護につけるが、さすがに俺とジュゼッペだけじゃ今の位置は少
ない」
「既に、ルース准尉とダムス少尉を向かわせています。それより、ドラゴ
ン小隊は突っ込みすぎですね。右翼ががら空きになりますが」
「ああ、どうせ、ジャネットと合流後、二人にそこに行くように指示している
んだろ」
ケイスの言葉に頷くカイン。
ケイスとカインが通信している間、ジャネット、エリザ機はダムス、ルース
機と合流する。
「ジャネット、大丈夫か」
「ええ、まだ敵と接触していないしね。ネイルアーガマに戻るまで援護をお
願い」
「わ、わかりました」
ルースが通信にしゃしゃり出る。ジャネットはそんなルースに微笑み、「期
待してるわよ」と一言言った後にルースにウィンクする。とたんにルースは
顔を真っ赤にする。
「本気にするなよ。ルース、相手は百戦錬磨の女パイロットだ」
「あら、随分ねダムス少尉。私がルースをひいきにして妬いてるの?」
「まさか」
「なによ、面白みの無い男。とにかく、後はよろしくね」ジャネットは通信を切
り、エリザの搭乗するZAIRに接触し、接触回線をつなぐ。「エリザ、大丈夫?
エリザ、エリザ! どうしたの?」
「・・・だいじょうぶ…」
エリザの声からは青ざめている顔色が容易に連想できる。
「エリザ、私はあんたがあんまり好きじゃないけど、死んで欲しくないの」
「どういうこと?」
「深い意味は無いわ。ただ、シンがあなたの事を気にかけているみたいだか
らね」
「え?」
エリザが問い返そうとした瞬間、目の前にビームの光が横切る。
「流れ弾よ。あたりはしないわ。エリザ、楽にしていて、私が牽引してあげる」
ダムスは、流れ弾の発射ポイントを計算し、ビームライフルを撃ち、牽制する。
「ルース、今狙ったあたりに敵がいる。俺がおとりになるから、回りこんで敵
機の背後へ回り込め」
「りょ、了解」
ルースはダムスの指示に従い、敵機の背後に回りこむ。
その光景をネイルアーガマ付近から見守るのはカインである。
「ダムス少尉、ルースはまだ新米だ。そんな役割はまだ無理だ」
カインはMSのバーニアを全快して、ダムス、ルース機のいる宙域へ進む。
カインはルース機が射程になるぎりぎりのところでビームライフルを構え、ビ
ームを発射する。ビームはルースの機体を横切り、ルース機の死角から近
づいているMSを捉えた。射程距離を越えているとは言え、ビームはMSに
ダメージを与えた様子は無い。
カインはその間にコンピュータに、察知したMSのデータを検索させた。デ
ィスプレイには「NOT FIND」のメッセージが出る。
「新型か? 一機だけと言う事は、偵察か?」
カインが呟くと、ルースから通信が入る。
「隊長、いったい」
「落ち着け、ルース、隊長はおまえを援護したんだ。それぐらい自分で判断しろ」
ダムスのきつい忠告にルースは、その時初めて、敵機を確認した。ルース
の表情がとたんに青ざめる。
「ダムス少尉、気をつけろ。新型だ、不用意に近づくな」
ダムスはカインの言葉が耳に入っていないように、ビームサーベルを抜き
敵機に切りかかる。
「データが無いなら取るべきでしょう。隊長」
ダムスの言葉にカインはただ苦笑するばかりだった。
新型MSはモノアイを赤く光らせ、ブレード小隊を嘲笑うようにその場から移動
した。
「艦長、カイン中尉より、敵機の中に新型MSがいることが確認されています。
あ、MS部隊が3時の方向からやってきます。カイン中尉の接触したMSと照
合しました」
オペレーターの声が艦橋に響く。
「ドラゴン小隊は?」
「正面のトーアの部隊をほぼ、撃破…です」
驚きが含まれているオペレーターの声を聞いたリュウ・カノウ艦長は苦笑し
た。
「フレイム小隊は?」
「現在、目的地において待機中・・・いえ、すでにブレード小隊と合流しています。
あ、通信が入ります」
「通信回線を開け」
カノウの指示に、艦橋にある大きなディスプレイに、ケイス・ウィンターホースの
顔が映し出される。
「よう、予定外の奴が出てきた。新型みたいだが、どうする?」
ケイスの表情には指示を求めておきながら、既に決断を出している様子がう
かがえる。
「悪いがもう一仕事頼む。ドラゴン小隊の機動力ならちょうど敵機と接触するあ
たりで合流できるだろう」
「了解。まったく、人使いが荒い艦長だ」ケイスは軽く敬礼して、通信を切る。
「何を言っている、おまえの判断を代わりに言ってやっただけだ」
「なんだ?」とウィンターホース。
「いや、独り言だ」
艦長は苦笑した。