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●ルース
 補給後、すぐに出発する予定だったが、予想外のことが起こった。
ブリザードである。
ミノフスキー粒子の発見以来、レーダーなどの精密機械は正常に動作するこ
と自体が難しくなり、目視による運行が基本となった。
 その為、地球上で、戦艦が運行するのに嫌われるのが、視界を妨げる、霧
や嵐、吹雪といった天候である。
 かなり高い緯度に存在するアラスカでは、氷原が広がり、夏でも、完全に氷
がとけきることはまれである。
 そんな極寒の地の港には容赦なく、ブリザードと呼ばれる吹雪が暴れまわる。
 だがそんなブリザードでも、アイアンホースの中から見ると自然が創り出す、
一つのアートにすらみえる。
「ブリザード・・・外にいればこんなことは言えないでしょうけど、きれいね」
 アリエスはうっとりしながら言う。
「はい。でも・・・ここにすむ人にとっては・・・」
 隣にいたルースはもじもじしながら言う。
「人は当事者で無ければ、いくらでも客観的になれるものよ」
「そんなものでしょうか」
「そんなものよ」
「それより、この前、案内してもらえなかった場所、案内してもらえないかしら?」
「いいですけど、なんで俺なんか・・・」
「あなたはかわいいからよ」
「か、からかわないでください」
「いいえ、あなたには才能がある。パイロットとしてのね。
でも、このままではあなたの才能をだめにしてしまう。
特にあのシン・イチジョウ中尉といたら振り回されるばかりよ。
あなた。あの人のようになりたいと思っているでしょう?」
ルースは図星だと言わんばかりに表情を強張らせる。
「彼は特別よ。同じになりたいだなんて思わない方が賢明だわ。あなたのように本
当の意味での優しさをもっている人はね」
「それは、俺がまだ甘いからということですか?」
「違うわ。イチジョウ中尉自身は気がついていないでしょうけど・・・」
 アリエスがそう言いかけると、言葉を止めた。
 アリエスの表情が一瞬厳しくなるが、アリエスの表情から厳しさが消えた。
「ど、どうしたんですか」
「ごめんなさい。
 とにかく、あなたはここにいては伸びないわ。あなたは気がついているかも知れな
いけれど、私はホンロンと同じ諜報員なの。今はある有力議員の下で働いている
わ。
 どう? 今回の任務に協力してくれたら昇進できるわよ」
「ば、馬鹿にするな!」
 ルースは怒りが込み上げてきた。
「気に触ったらごめんなさい。
 協力といっても、そんなに難しいことじゃないの。
 一足先にあなたのMSが私をつれてバックランド基地へ向かえばいいの。
 これは、裏切りとかそういうものではないのよ。
 A・G・Aがバックランド基地から核弾頭を盗み出そうとしているの。私の任務は、核
弾頭奪還阻止。
 どう? 結果的には連邦軍の為にならない?」
 ルースにはアリエスの言い分も一理あると思った。
 もし、A・G・Aが核弾頭を奪還すればそれは核による犠牲者が増えることを意味する。
 戸惑うルースにアリエスは言葉を続けた。
「それに、ここは言ってしまえばお化け屋敷よ。
 死神に取り付かれたエースパイロットを始めとして、戦争が生んだモンスターがうよう
よしている。
 特に、MSのパイロット達は異常よ。
 だからこそ、あんな死線を超えてきたんだわ。
 知っている?
 イチジョウ中尉と同じ任務についたパイロットはみんな死んでいくという噂。
 他に、カイン中尉だって同じ。彼はテロ対策の部隊の指揮をとっていて、次々と優秀
な部下を死なせていったわ。それに・・・」
「止めてください・・・みんなの・・・みんなの陰口は聞きたくありません」
「ごめんなさい。言い過ぎたわ。でも、わかって。
 このホワイトフェザー隊は、常に死線に向けられる部隊なの。それが、あなたのような
新人パイロットが生き残る可能性を考えたら、いてもたってもいられなくて・・・」
「な、なぜ俺の・・・」
 ルースは最後まで言葉が言えなかった。
 アリエスの唇がルースの唇に触れたから。
 ルースはアリエスに操られるかのようにアリエスを抱きしめた。


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