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●舞台裏
 一方、ジョージ・ケネディは月にて長髪の男と向き合っていた。
 鋭い抜け目の無い視線は、相手に警戒心を与えずにいられない印象だが、決し
て、信用できないという不信感は感じさせなかった。
 この長髪の男の名はゼガチ。
「さて、情報料は例の口座に振り込んでおいてください」
「ああ、分かっている。おまえの情報は不思議と正確だ。アリエスから報告があった
よ。A・G・Aのねらいについてな」
 ジョージはいらだたしげに返事をする。
「そうそう、そのアリエスも知らないでしょうが、例のものを狙っているのは、A・G・A
だけではありません」
「ま、まさか・・・シャァか・・・
 いや、それはありえん。シャァは一度連邦についた。言い換えれば、一度ジオンを
裏切ったのだ。自分たちを裏切った民衆が彼を支持するわけも無い」
「しかし、彼はスイート・ウォーターでひそかにジオンらスペースノイドをまとめている」
「失脚した敗北者の末路だ。心配はない」
「おかしいですな。私のつかんだ情報だと、彼は例のもののコレクターをしているそう
ですよ。
 アリエスの報告書にありませんでしたか? どこかの連邦の部隊とネオジオンの残
党と思われるMSが接触したと・・・」ゼガチはジョージの白黒する表情を楽しむように
観察してから一言付け加えた「もっとも、たんなる偶然と判断するかどうかは貴方の
自由です」
 ゼガチはそのまま立ち上がると立ち去ろうとする。
「まて! 目的はなんだ?」
 ジョージの強い口調をなだめるように笑みを浮かべたゼガチはジョージの耳元でささ
やく。
「サービスですよ。パラヤ参謀次官のような楽観主義者ばかりでは、シャァが圧勝して
しまう。
 私は連邦の治世を望んでいるだけです。ジオン相手ではいろいろとやりにくいのでね。
 なに、あなたなら何をすればよいか分かるでしょう」
「私にロンドベルに力を貸せというのか?」
「ちょっとだけジオンの存在に警鐘を鳴らせばいいのです。非戦論の貴方が戦争の原因
になりそうな存在を批判するのです。なんの矛盾も無いでしょう。
 ただ、ロンドベルの批判を弱めてね」

●混乱
「グレイ・ルース、緊急出撃します!」
 その声がアイアンホースを混乱に落としいれた。
 まだブリザードはおさまらないまま、何者かによって無断でMSデッキがあけられた。
「ルース少尉! どういうつもりだ!」
 ブリッジからウィンターホース大尉の怒鳴り声が響く。
「確実な情報です。もたもたしていたら、犠牲者がたくさんでます。
 全責任は俺がもちます」
「ばか野郎!  おまえがなんていったって、責任は俺にくるんだよ!
 とにかくサーディガンから降りろ!」
 ケイスの怒鳴り声は、サーディガンの発進する爆音でかき消された。
「大尉。出撃許可を」
「な・・・」
ケイスは目を白黒させてサーディガンに登場しているアグ・ダムスを見た。
「そんなところで何をやっている!」
「MSの調整をしていましたら」
「言い訳なんぞ聞きたくない。気づいていたのになぜとめん?」
「疑わしきは罰せずです」飄々と応えるダムス。
「大尉、追わせましょう。私もすぐに出ます。行き先はダムス少尉が押さえているでしょう」
「アベル中尉・・・状況も状況だ。やむえん」
 ケイスがうなっていると、オペレーターの悲鳴に近い報告が飛び込む。
「た、大変です。バックランド基地付近で戦闘が繰り広げられています。
すべて、連邦軍のものではありません」
「ック、A・G・A以外の勢力がいるということか!」カノウ艦長は舌打ちをしながら言葉をこ
ぼす「アイアンホースの出撃はできるか?」
「無理です。ブリザードが激しすぎます」
「おれたちの出番だな」
ケイスが苦笑をしながら艦長に言う。
「いつも負担をかける」
「なに、部下の責任を取るのと、上官の無理を聞くのが俺の仕事さ」


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