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相対ゴブリン 06

「つまり、哲学の使い方がわるいと哲学モンスターが出るってことでいい
わね」
 無言の僕に、カオリさんが確認するようにいい、僕は無言でうなづいた。
《うわぁ〜、哲学ってモンスターを生みだすのかぁ》
 こっちはものすごい誤解をしているような・・・。
「じゃぁ、私に哲学モンスターがとりついていると言いたいの?」
「た、多分」
 僕はそうだと確信しているけれど、断言はできなかった。
 さっきはかなり一瞬で錯覚の可能性があるし、僕だってやっとぼんやり
見えるくらいなんだから。
「その多分は、気のせいかもしれないということ?
 それとも確信が持てないということ」
《きっと気のせいなのだ》
 いや・・・めぐたんに聞いていないよ・・・。
 でも、カオリさんは上手にめぐたんのスボケをスルーした。
「後者」
 カオリさんは僕とのコミュニケーションを見つけ出したようにニッコリ
笑った。
 そう、確信がもてない。
 これが、僕が哲学モンスターが見えることに対して、おかしくなってい
るんじゃないかという疑問が強くなる原因だ。
「じゃぁ、こうしましょう。
 仮に哲学モンスターがいるとしましょう。
 大丈夫、あくまで仮説だから、仮説を検証して仮説が正しければ、矛盾
はないはずだし、仮説が正しくなければ、どこか矛盾が出てくるはずよね」
 そのとおりだ。
 間違っているかもしれないと思うから話せないけど、仮にでも正しいと
いうことにしておけば、いろいろ知っていることが話せる。
「たぶん、僕が今見たのは・・・たぶん、相対ゴブリン」
 僕は誤解を生まないように言葉を選ぶ。
「ゴブリンといえば、敵意や悪意を持つたちの悪い小人で、人間の子供ぐ
らいの大きさの小鬼のことね」
 カオリさんがゴブリンのことを知っているのは意外だが、考えてみれば
なんとかクエストとかなんとかファンタジーとかやっていればある程度は
メジャーな存在なのはたしかだ。
 ゴブリンのことは学校では教えてくれないけれど、学校でならう知識以
外のことだって、社会で生活していれば分かることだから。
「じゃぁ、相対というのは、相対的ってこと?」
「相対主義」僕はうなづきながら言う。
「そう、哲学ね。
 でも、哲学とファンタジーのモンスターってどんな関係なの」
 カオリさんは首をかしげた。余談だけれどもふと見せる女の子らしいし
ぐさをするカオリさんもステキだ。
《ふぁんたじーといえば、鉄の剣なのだ》
 ああ、哲学の哲を鉄に勘違いしているのね。
 でも学はどーしたんだ?
 そんな疑問ともツッコミともとれないことを考えていると、カオリさん
の笑いのツボにはまったらしく、くすくすとわらっている。
 うん。かわいい。
「哲学の方法論の暴走のこと・・・」
 僕は調子にのっておもわず口にだしたけれど、分かってもらえるか不安に
なる。
「哲学の使い方を間違っているということ?」
 僕はカオリさんの言葉にうなづいた。
 そう。哲学は物事をあらためて問い、その問いの結果、限定的な回答を
導き出すのには非常に役に立つ学問だ。
「それは、私が間違って哲学を覚えているということかしら?」
 カオリさんの言葉に大きく横に首を振った。
 その時、カオリさんの部屋の本棚にソクラテスの弁明を見つけた。
 そして、何冊かの哲学関連の著書の中に”史上最強の哲学入門”を見つ
けた。
 僕はとっさに”史上最強の哲学入門”を手に取りページをめくりプロタ
ゴラスのページを指さした。

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