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相対ゴブリン 09

 ど、どうしよう・・・。
 考えれば考えるほど考えがまとまらない。
 いや、おちつけ。
 そうだ。
 焦ったのが今の失敗なら、落ち着いて考え、現状を分析することが解
決策だ。
 まず、相対ゴブリン自体は、それほど強い哲学モンスターではないが、
繁殖力が強い哲学モンスターだ。
 繁殖力が強い。
 繁殖力が強いというのは、他の人にも影響を与え、相対ゴブリンが感
染するということだ。
 そうか。
 ホームルームでのカオリさんらしくない言動は、どこかで相対ゴブリ
ンに感染したのか。
 でも、どこで?
 カオリさんほど冷静で理性的なら、ちょっとやそっとじゃ感染しない
はずだ。
 そもそも哲学モンスターは、哲学の知識の暴走なのだから、哲学の知
識を正しく理解できていれば、相対ゴブリンほどの繁殖力があっても、
感染はしないだろう。
 なぜなら、理性という免疫があるから・・・免疫?
 そうか。
 カオリさんは、家族の人間関係で精神的に限界にきていた。
 すくなからず、冷静でいられないときに、免疫力が弱まり、強い感染
源があれば、カオリさんといえども感染してしまうだろう。
 普通の人ならそれほど重要な問題もなく、屁理屈をこねる程度で終わ
るはずだけど、カオリさんは頭脳明晰だから、相対ゴブリンの生育もと
ても早くなったということか。
 頭のいい人が相対主義を暴走させれば手に負えないのはまちがいない
からだ。
 それにしたって、相対ゴブリンぐらいだったら、カオリさんは抑え込
めたはずだ。
 ということは、強力な感染源だったということか・・・もしかした
ら・・・僕のクラスほぼ全員が相対ゴブリンに感染していたとすれば・・・。
 僕はめぐたんの学校での言葉を思い出した。
”いつも以上にみんな好き勝手なことを入っていたんだけど、いっつ
もみんなの意見をまとめるカオリが、まとめるどころか、いろんな話
をして、まとめるのと逆のことをしているのだ”
 相対ゴブリンは、好き勝手なことをいうために、相対主義を暴走さ
せるのだ。
 そう、クラスのほぼ全員が相対ゴブリンに感染し、強力な感染源と
なり、カオリさんにも感染した。そして、カオリさんは優秀であるが
ゆえに、強力な相対ゴブリンを無意識に育て上げた。もちろん、カオ
リさんの理性と精神力で、それは抑えていたわけだけど、ついにはカ
オリさんは相対ゴブリンを押さえつけることができなくなり、カオリ
さん本人をも支配してしまった。
 僕はあきらかに、初期段階の対処をしてしまった。
 つまり、僕がカオリさんが抑え込んでいた相対ゴブリンを解き放つ
きっかけをつくってしまったということだ。
 なんということだ!
 僕は自分を責めて、言葉を失った。
 だけど、ここまでわかれば、対処法は絞られる。
 僕は歯を食いしばり、カオリさんを直視したとき、僕が思考してい
る間に、めぐたんとカオリさんが問答をしていた。
《カオリ!
 そもそも、真理って何なのだ?》
「いつどんなときにも変わることのない、正しい物事の筋道よ」
《変わりがないんなら、一人一人別々の真理があるのはおかしいのだ。
 正しい物事の筋道ってなんだのだ?》
「道理にかなっている正しい論理よ」
 ・・・ソクラテスの産婆術・・・
 めぐたんは、自覚しているかどうかはわからないけれど、ソクラテ
スの産婆術を使っている。
 僕がこれからやろうとしていた対処法をめぐたんがしている。
 僕は唖然とした。

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