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ソクラテスの迷宮 01

 いや、満喫というとちょっと違うかもしれない。満喫しなければならない
というなかば、強迫観念めいたものをもっているのではないかと思う。
 というのも、学生から社会人になれば、労働という見えない足かせをつけ
られるのだから、このどうにも無駄な自由な時間というものはとても貴重な
のだろうと僕はぼんやり思い描く。
 なぜなら、父も母も、そしてあの堕落した兄すらも労働という見えない足
かせを重そうに引き摺っているのだから。
 正直、平和な学生生活が日常である今の僕には、自分が労働者になるなん
て想像もつかない。
 平和な学生生活・・・そういえば、この前は哲学モンスターがらみで平和
ともいえない状況だったのをふと思い出した。
 たぶん、あれは平和などではないのだろう。
 ともあれ、カオリさんとめぐたんが相対ゴブリンを退治してからというも
の、クラスにまん延していた相対ゴブリンは、めぐたんの産婆術によって概
ね解決したわけで、その意味でも平和に戻ったのだから、平和な学生生活と
いっても支障はないだろう。
 もっとも、僕といえば、そんなことにかかわらず、相変わらず惰性で受け
た授業を、うわべだけ理解して、うわべだけの知識を確認する試験に合格す
るために勉強しているわけだ。
 まぁ、独創性のない言葉で表現すれば、退屈だということだが、花屋さん
に言わせれば、人生に退屈を感じている時こそが幸福だという。
 花屋さんの言葉が本当であれば、幸福というものはなんとも味気ないなと
僕は思う。
 なんというか、幸福というのはもっと特別で、非日常的で気持ちが高揚す
るものだという印象があるからだ。
 とにもかくにも、僕は、退屈な授業を終えて、なんとなく、図書室に向か
うことにした。
 ルビノ高校の図書室は、下手な図書館よりも蔵書量が多い。
 これは、ルビノ高校の図書予算が多いからではなく、活字中毒の卒業生が、
片っぱしから読み終えた本を母校であるルビノ高校に贈与するのだ。
 おかげで、生徒からは図書室のことを古本屋と揶揄されることがある。
 まぁ、そんなわけで、図書室にはさまざまなジャンルの本が本棚に押し込
まれている。
 ただし、雑然としているわけでもなく、きっちり分類されているというの
は、図書室の司書の生理能力を評価すべきところだろう。
 もちろん、なぜそんなことになっているのかは、きちんと理由がある。
 実は、ルビノ高校の図書室は一般にも公開され、活字中毒の卒業生は寄贈
といいつつ、図書室を書庫として利用し、読みたくなれば図書室に来て読ん
でいくという、理由がある。この理由を知るとあきれ果てるものだ。
 古本屋と呼ばれるが、卒業生の書庫と言った方が正しいかもしれない。
 なぜ、在校生の僕がそんなこと知っているのかというと、理由はいたって
シンプルで、兄の哲(さとし)が活字中毒の卒業生の一人だということがもっ
とも有力な理由といえるだろう。
 兄は、分厚いさまざまな分野の本を読みあさっては、占星学と哲学の本以
外は、次々と図書室へ寄贈している。
 ちなみに、一部の本は僕の部屋の本棚にしまってある。
 カオリさんにこのことを話したら、そんなのはおかしいとは言われたが、
まぁ、家庭の常識というものは、家庭ごとにあるのだから、と僕は思う。
 もともと、僕はあまり、物に執着しないから、部屋自体が殺風景になって
いるという自覚はしている。
 この前、カオリさんの部屋に伺った時は痛感した。
 それにしても、カオリさんは端正な容姿に凛々しい性格で、聡明だし、そ
してセンスもいいのだと部屋を見て思う。

 

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