「あれが、サイジュエリーの力なの?」
鬼塚がエルストに質問すると、エルストはサディスティックな笑みを浮かべて頷いた。
サイジュエリー。
超能力者であるサイクラフトの体内に潜む賢者の石を加工した物質である。
サイジュエリーを移植すれば超能力を引き継ぐことがあることがわかっていた。
しかし、臓器移植のように拒否反応を起こす場合もあり、研究段階で足踏みをしていたのが現状である。
サイジュエリーを移植した子犬は、子犬から、別の猛獣に変化し、怒りの咆哮をあげた。
猛獣の咆哮が虎を本能的に萎縮させた。
虎が萎縮し、動きを止めたかと思うと、子犬だった猛獣は、大きく跳躍し、一瞬で虎の喉元を鋭い牙で掻き切った。
猛獣は、虎の返り血を浴びると、今度は観客である白狐たちをにらみつける。
「ば、ばかな、むこうからは、こっちは見えないし、匂いだって遮断されているはずだ」
エルストは計算外の猛獣の能力にパニックをおこしていた。
猛獣にサイジュエリーが移植されたということは、サイクラフトのような超能力を得られる事ぐらい、予測するべきだったはずなのに、それを予測できず、自分を危険にさらした事、幹部たちを危険にさらしたことは、もうエルストのミスでしかなかったのである。
「こ、ころせ! なにをしている、あの実験犬を殺すのだ!」
エルストは半狂乱になって叫ぶ。
「頭を狙いなさい。頭が弱点です」
マクシミリアンは、パニックでエルストが出しそこねた指示を補足した。
その瞬間、白狐の頭に、目の前の防弾のマジックミラーを実験犬が破壊する事を予知するビジョンが見える。
「蝦夷谷! 社長をお守りしろ」
白狐が蝦夷谷に指示を出すと、緊急事態であることを察した。
蝦夷谷は、白狐が予知能力には一目をおいているのだ。
蝦夷谷は、微動だにしない女社長の前に立ち、防弾のマジックミラーに向かって身構えた。
そして、白狐は言葉を続ける。
「マクシミリアン! 私の予知のイメージを蝦夷谷とエルストへ」
マクシミリアンは無表情に頷いた。
エルストは信じられないビジョンをマクシミリアンから送られ、愕然とするが、パニックからは回復したようだ。
それとは、対照的に蝦夷谷は、実験犬が体当たりして、壁を破るコースを計算して、女社長の壁になる。
女社長は、そうされるのが当たり前のように振舞っている。
そうしている間にも実験室の中には銃弾が撃ち込まれ何発も実験犬の体を貫いている。
だが、実験犬は弾丸が撃ち込まれれば撃ち込まれるほど、強大な力を持つように、壁に体当たりする力が増してくる。
「ば、ばかな・・・」
「あなたも、白狐の予知を見たでしょう。
白狐の能力なら、あのぐらいの時間の予知は確実におこります。
エルスト! あなたは蝦夷谷の仕事の後にすべき事をしなさい」
凛としたマクシミリアンの声がエルストを切り捨てた。
続く
呟き尾形 2006年6月18日 アップ
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