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光の鳳雛、時の伏龍 5

 

 ガン、ガン、ミシッ!!!
 実験犬が壁を文字通り破壊して襲い掛かろうと、体当たりを繰り返している。
 エルストは、予想もしなかった、トラブルのうえに、自分の面子をつぶしたマクシミリアンの言葉を逆恨みした。
 そして、エルストは、心の中で、マクシミリアンへ罵詈雑言と呪詛の言葉を繰り返していた。
 一方、マクシミリアンは、エルストの内心の罵詈雑言をテレパシーで読み取りながらも、涼しい顔で無視していた。
 なにはともあれ、エルスト自身、罵詈雑言と呪詛の言葉を内心で言い続けるほど余裕はなかった。
 エルストは、自分の失態を帳消しにするためにも、自分の仕事をこなさなければならないのだ。
 そうでなければ、自分の立場はもとより、目の前のサディスティックな女社長が自分に何をするか想像だけで背筋が凍りついてくる。
 エルストは、いつでも自分の能力を発揮できるように、神経を集中させた。
 ついに、壁はひび割れ、大きく崩れ始めると、壁の破片と共に実験犬は自分を冷ややかに見る女社長へ襲い掛かる。
 が、すでにそのコースを知っている蝦夷谷は実験犬の首と胴体を鷲づかみすると、強引に実験犬の胴と頭を引きちぎりエルストに頭を投げつけた。
 頭はエルストの足元に落ちるが、その牙むき出しの口は、まだ無傷の狂犬のように今にも噛み付きそうである。
 エルストは恐怖で躊躇していると、白狐が実験犬の頭をかかとで押さえつけるように踏みつけた。すると、実験犬の頭が動きが止まった。
「このほうが仕事をしやすいでしょう。エルスト?」
「あ、ああ」
 エルストは頭に手を突っ込むと、サイジュエリーを取り出した後、実験犬をもう片方の手で触る。
 すると、触れられた場所から腐敗した独特なにおいが鼻を突く。
 そして、実験犬の頭が跡形も無く溶けて行った。
 さすがの白狐もこの時ばかりは男に嫌悪感を感じた。
「この実験は失敗ね。エルスト。
 いくら強力でも、コントロールできなければ、使い物にならないわ」
 女社長は、ゴミを見るような目でエルストを見下した。
 エルストは、怒りと恐怖が混じった表情で嗚咽を漏らし、床に頭をつけて土下座をする。
 マクシミリアンは眉間にシワをよせ、蝦夷谷はあからさまにため息をつく。
 白狐も肩をすくめた。自分にテレパシーの能力が無くとも、マクシミリアンと鬼塚の考えがよくわかった。
 女社長は、この後、エルストに恐怖の制裁を加えるだろう。
 そして、白狐の考えはそのまま予知となって現れる。
 女社長は、エルストの頭に軽く触れそのまま、その部屋を出るのだ。そして、エルストは悲鳴を上げながら「助けて」とうなされるように、苦しんでいる。
 そう、女社長もサイクラフトなのである。
 彼女の超能力は触れた人間に幻覚見せる事だった。
「マクシミリアン。次はあなたが見つけた、ナチュラルのサイクラフトにあわせて頂戴」
「仰せのままに」
 幻影に脂汗を流しながら、下品にあえぐエルストとは対照的に、マクシミリアンは優雅に返事をした。

 続く 

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 呟き尾形 2006年7月16日 アップ

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