「それでは、私たちは、観客席に席を移動しましょう」
マクシミリアンは白狐を格闘訓練の格闘ルームへ促し、他の観客を観客席に促した。
白狐が、部屋に入ると、一人の青年が待ち受けていた。
青年は金髪で、腕組みをして、いかにも命令されるのが嫌いだといわんばかりに白狐に挑発的な視線むけていた。
「手加減しねぇぜ、おっさん」
無機質な灰色の壁に囲まれた空間に、サウザーの声が響く。
「心配ご無用です。
ところで、あなたほどのサイクラフトがこんな所で大人しくしているのですか?
あなたの力ならここを逃げ出すことは可能でしょうに」
白狐は、裏社会で修羅場をくぐり抜けて生き残ってきた男である。すでに目の前の相手の力量を見抜く術はもちあわせている。
白狐が上着を脱いでいる間に、サウザーは、合成樹脂のボディースーツを着込んでいた。
サウザーは、すぐさまファイティングポーズをとる。
「おっさんのおしゃべりは格好悪いぜ!」
合成樹脂のボディースーツはサウザーのボディーラインを忠実に表現し、ギリシア神話に出てくる男神の体のように芸術的ですらある。
両者の戦闘態勢は整った。
白狐は右足を前に出し、腰を落として蟷螂の姿を模写した構えを取る。
それに対してサウザーは、ファイティングポーズを保ったまま、リズミカルにステップを踏み、戦闘態勢を整えた。
どことなく静的でクラシックな戦闘スタイルの白狐と、動的でモダンな戦闘スタイルのサウザーはどこか対称的である。
2人は間合いを詰めつつ攻撃のタイミングを計る。
(このおっさん。スキがねぇ)
天性の勘がサウザーに危険信号を出した。先に手を出してはいけないと・・・・。
しかし、攻撃しないで待つと言うことが出来ない青年は、迂闊にも、軽いジャブを放つ。
その結果、サウザーは自分の勘が正しいことを確信する。
軽いジャブ程度と言えどそのスピードは常人の目にはいることはないのだろうが、修羅場をくぐり抜けた白狐となれば遅すぎた。
白狐はサウザーの右手を蟷螂の斧で捕まえると、そのままサウザーに前蹴りを放つ。
右手が掴まれたまま動けぬサウザーは、反射的に左手で白狐の蹴りを受ける。
「なに!?」無表情の白狐が眉を吊り上げた。
「止まって見えるよ。おっさん!」
お互いの初めの一撃はかわされ2人はもう一度間合いを取り直すと、サウザーはすかさず白狐の足を払う。
白狐は、サウザーの足払いを軽くあしらうと、中腰のサウザーに蟷螂が獲物を捉えるように斧を振り落とした。
サウザーは頭上で両手をクロスして白狐の攻撃を受けとめる。サウザーの両腕に予想以上の衝撃が走ると、白狐の容赦ない膝がサウザーの顔面に入る。後ろにのけぞるサウザーに追い打ちを掛ける白狐。
その瞬間、白狐の肩に白い閃光と真紅の鮮血が走った。
右肩に真っ赤な血を流し、片膝を着く白狐。
サウザーの右手には白く光る剣があった。
「悪いな。この局面でライトソードというのは卑怯な気はするけど、俺は負けるわけにはいかねぇんだ。
おっさん」
「いえ、正しい判断です。
この傷で戦闘を続けても結果は目に見えてます。私の負けです」
白狐は、そういいながら、胸ポケットにあった白いハンカチで鮮血をぬぐい、上着を取りにサウザーに背を向けた。
続く
呟き尾形 2006年9月10日 アップ
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