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●矢島智樹(やじまともき)
・・・事件の現場・・・。
矢島は血の海の中にいた。
「これで、何件目だ?」
「これでもう5件目です」
たずねられた警官は記録を引き出し、簡潔に答えた。
答えに眉間の皺をよせ、血の海の元へと近づいた。現場はマツド第4高校。被
害者はここの教師らしい。
今は無残な姿で、残りの血を流しながら横たわっている。目は見開き、恐怖に
凍ったままだ。
現場に手をつけないのが捜査の鉄則だが、矢島はあえてそれを無視し、被害者
の瞼を閉じてやった。
「チーフ、矢島チーフ」
後ろから、A4サイズくらいのコミュニケーターを持った警官がそう呼びかけ
た。
その意味を察したのか、さっきとは違った意味で眉間に皺をよせ。面度くさそ
うに、それを受け取った。
「矢島か。現状はどうだ」
細身だが、威厳の有りそうな髭をはやした制服姿の人物がディスプレイに映し
出されていた。
「どうもこうも、前回と同様、ひどい有様ですよ。署長。よりによって、学校
ですよ」
無造作に髪をかきあげながら、あきれるように言葉にだした。
「まぁ、そう言うな。たまたま学校だっただけだ。次は病院かもしれんし、警
察署で、この私が八つ裂きにされるかもしれないのだぞ」
署長は冗談交じりだが、声のトーンは変わらず低い声で言った。
一つため息を吐くと、「で、なんです。」と説教だけはごめんだねと言いたげ
に、逆に話を切り出した。
手元の書類を確認したのか、目線を一度落としてから怪訝そうな顔で伝えた。
「要件は二つだけだ。一つは現状の報告をまとめてほしいんだが、できれば今
日中に」
矢島は時計を見て時間を確認してため息を吐きながら。
「今日中ですか?」
「あぁ、そうだ。上の方がうるさいものでな。一応把握しているものの正式な
ものが欲しいそうだ。
 情報源さえしっかりしてれば私のほうでまとめはするが。」
「はぁ・・」と気が無い返事。
「それと、もう一件だが・・・・・」
「なんです?」
「だいぶ前に、申請していた休暇が受理された。期間は明日から3日間だ」
伝えた本人もなっとくのいかない顔をしている。矢島の眉間に皺が寄るのを見
て言葉が出ないうちに口を開いた。
「私にも理解はできんが、申請し受理されたもは仕方が無い。今日の報告をま
とめたら、明日からは暇をとれ。いいか、明日からは自由だからな。すこしゆ
っくりと自由に時間を使え。いいな」
反論を許さぬまま、コミュニケーターの画面がブラックアウトした。
申し渡された矢島は、あっけに取られ、しばし放心していた。
矢島はやがて何かをあきらめるように、眉間の皺を解き、警官にコミュニケー
ターを手渡すと、自分の車へと歩いていった
「自由・・・・ねぇ・・・」
と、自由ってなんだっけと言いたげにつぶやいた顔には、苦笑がこぼれていた。

●ナオ・ベルディス
 ナオ・ベルディスは、整った容姿に、エキゾチックな雰囲気をかもし出す、
金茶色の髪にダークブルーの瞳、日仏ハーフの男性である。
そんなナオの職業は、パペットパイロットである。パペットとは、5m〜8m
の人型ロボットで、戦争勃発前の宇宙開発で開発が盛んに行われた。軍事用に
乱開発された時期もあるが、その後、APS(Auto Pilot System)、AD
(Auto Doll)の発達により、最前線での活躍は少なくなり、戦場現場直接指
揮に使用されることになる。
 パペットには大きく分けて2種類あり、作業用パペットと軍事用パペットが
ある。
 LD内では作業用パペットがよく見かけられ、現在ではコンパクト化され、
2メートルのパペットも存在するようになった。旧世紀の工事関連の機械機能
を汎用的にこなせる万能ロボットとなっている。そういったパペットの需要と
ともに、パペットを操縦するパイロットも貴重な存在となっている。
故に、ナオの仕事は工事現場になることが多い。ナオは現場でのパペットパイ
ロットとしての仕事を終えて、このまま帰ろうかと考えていた。
「お兄さん、食事でもどう?」
 背後から女性の声が聞こえてくる。
 ナオが振り返ると、鼻につく香水のにおいを振り撒く化粧の厚い女性がいた。
洋服、バック、アクセサリーはすべてマツドLDでは流行の物だ。
 女性はいかにも自分の容姿に自信があり、自分に声をかけられたことを感謝
しろと言わんばかり口紅のついたタバコを投げ捨てる。
 巷では、彼女のことを美女と呼ぶかもしれないが、ナオにとってはうざった
い女性でしかなかった。
「悪いけど、忙しいんでね」
 ナオは適当にあしらい、女性を無視してその場を立ち去る。後ろから、女性
の罵声が聞こえてきたが、気にはならなかった。
「女なんてあんなものだ・・・」
 ナオは一言呟いた。

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