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●工藤香子(くどう きょうこ)
 病院の廊下から、ハイヒールを履いた時の独特のコツコツと言う、足音が聞
こえてくる。
 彼女は白衣に身を包み、少し栗色がかった髪色で、セミロングの髪は仕事の
邪魔にならないように、後ろでまとめている。
 全体的にしっとりさらさらとした感じで、陶磁器のような色白さが清楚な印
象を与える。そんな外見に加え、黒く、大きな猫を思わせる瞳は、一見クール
に見える女医だ。
 女医の名は工藤香子(くどうきょうこ)と言い、知的な印象の外見とは裏腹
に、昨日見たVNETのドラマを思い出し、そっと涙ぐんでいた。どちらかと
いえば姉さんタイプで、困っている人を見ると文句を言いながら助けてしまう
性格に加え、沈着冷静そうに見える外見から創造できないが、少々短気で、本
人も気にしているがあまり改善されてないようだ。
 また、はっきりと物を言うタイプだが、時と場所と何より人を選ばず、つい、
言い過ぎて後で後悔してしまう。
 もちろん、仕事では、丁寧な言い方をするが、普段は普通の若い女性同様の
話し方をする反面、同僚の証言によると、「最近の若い子の言葉は乱れている」
と、嘆いているという、少々、おばさんくさい面もある。
 香子は、精神科医を目指していたのだが、新人のころ、治療方法で過ちを犯
したことより、断念した。
 内科は地味で嫌、小児科は子供が嫌い、婦人科は男性がいない、耳鼻咽頭科、
眼科は問題外、...ということで外科医にした。しかし、精神科医を目指し
ていた為、精神分析などの基本知識はそれなりにもっている。
 半年前、恋人と別れて以来、とくに出会いはないようだ。
「あら、黒輝先生、徹夜あけですか?」
 香子は、廊下ですれ違った無精ひげがよく似合う、黒輝相馬(くろきそうま)
に声をかける。
「ええ、それでは私は帰宅するので・・・」
 黒輝はぶっきらぼうに言い、その場を去った。
(あれで、もうちょっと愛想がよければ合格なんだけどなぁ・・・)
 香子はため息混じりに腕組をしながら、黒輝の背中を見ていた。 

● 小川真琴(おがわ まこと)
 パソコンのディスプレイに写る白い文字は、ゆっくりと伝送されてくる。
 ディスプレイを見つめるのは小川真琴(おがわまこと)、女の子にしては短
すぎる髪だが男の子だとしたらちょっと長めで、華奢な体つきは何処か中性的
である。そのことが、マコトの性別の判断を難しくさせている。TシャツにG
パンという何処にでもいる男の子のような格好をしている。
 そして、マコトはディスプレイのメッセージに目を向けた。
>こんばんはマコト。依頼の情報は添付ファイルの中にある。いつものタクの
公開カギで圧縮ファイルを解凍できるようになっている。
4649。
 マコトはその文字を読み終えると、両手を広げて、目にもとまらぬブライン
ドタッチで、パスワードを打ち込む。
>お、さすがに速いね。そうそう、ちょっと面白いネタがあってね。YS製薬
をハッキングしたらリリトっていうハンドルでヘンなメッセージが届いたんだ。
"これ以上深入りすると、あなたは私のモルモットになります"だってさ、笑っ
ちゃうよね。
 マコトはY・E・Sと入力した。
>あ、そうだ。今度仕事以外でチャットしない? 僕も忙しいけれど、来週の
土曜ならあいているんだ。
 マコトは上を向き、サイバーアイに自分のスケジュール表を映し出す。しか
し、その日は、久々に母である異生物学者の小川一砂と食事をとる予定が入っ
ていた。
 マコトは間髪いれずにN・Oと入力する。
 しばし、ディスプレイが沈黙した後、TAKUがLOGUOFFしました。
というメッセージがディスプレイに残された。
「リリト…、聞いたことの無いハンドルだな。新人のハッカーか、ヴァーチャ
ルヒューマンか…」
 ヴァーチャルヒューマンとは、「NET上にのみ、その存在を確保される」
で、中央コンピュータの完全監制下にある、ネット上にのみ精神体が残った存
在であり、現在、ヴァーチャルヒューマンをADのアプリケーションとするか
どうかは現在の所は賛否両論で、その時の彼らの人権についても議論を呼んで
いる。
 しかし、肉体を失い、精神のみで生きているといわれて良いのだろうか? 
そんな取り留めのない事を考えながら、探偵サイトにアクセスする。
 マコトは、アクセス状況一覧を高速スクロールさせ、誰がどの情報サイトに
アクセスしたかサイバーアイに記憶させた。
 そのスクロールした一覧にはタクのIDがアクセスした形跡は見られなかっ
た。
(さすがだな。タクは。アクセスした形跡も見せないなんて…)
 マコトはそんなことを考えながら、タクから貰ったキーファイルを使い、探
偵の仕事を始めた。 

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