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●十六夜(いざよい)
正式名BG-2179 TIPE-β、十六夜は腰まで伸びる長い黒髪で黒い瞳の東洋系の
19前後の女性をモデルとしたAuto Dollである。
人工的に造られた容姿は、マネキンのように整っている。
十六夜を設計、製作を行った東郷竜之介の趣味で、十六夜の首には、首に鈴が
つけられている。
実戦経験もある旧型の軍用ADで、両腕、両足、背部にそれぞれオプションを
追加可能で、現役時代には二対の副腕を装備していたが、現在はそれは取り外
されていた。
今の外見からは想像もできないが、当時の高い格闘能力から、敵兵からも"死神"
として恐れられたこともある。
新型と交換される際、東郷竜之介が引き取り、家庭用ADとして生活する事
になった。
引き取られた後はマスターである、東郷竜之介の手で命令系統を改良され、
痛みを感じるWS(WORRY SYSTEM)の追加により、人の感情に酷
似したものを持つようにもなった。
十六夜にとって、竜之介と過ごす時間は初めて得られた平和だった。
そして、兵器として製造された自分をここまで改良してくれた、マスターで
ある東郷を心から感謝していた。
だが、そんな平穏な日々に終止符が打たれた。最近、マスターが何者かに拉致
されるという事件が起ったのだ。警察に捜索願いを出した後、家事は姉妹機に
任せ、自分もマスターの東郷の捜索に身を投げ出したのだ。
「それでは、マスターを探しに行ってきます。最後に頼んでおいたデータの転
送をお願いします」
十六夜は姉妹機に言う。当然かもしれないが、妹は十六夜と同じ形式のAD
で、双子のようにそっくりである。
「姉さま。お気をつけて・・・
マスターの腹違いの兄、姫崎剛(ひめさき ごう)は牧師をしております。マ
スターを拉致した可能性があるのは、龍(ろん)がマスターのAD技術を得る
動機があり、拉致した45%、YS製薬は、神崎博士捜索のために、拉致した
可能性ガが40%です」
「わかりました。まずは、龍から調査したいと思います」
十六夜は姉妹機の見送る中、その場を立ち去った。
●ナイト
ナイトは教会でかくまわれているターゲットの抹殺を組織から命じられた。
ADのように表情のないナイトは、教会の中にターゲットがいることを超感
覚で認識した。
「ターゲット確認。これより任務を遂行する」
ヴァーチャル空間の店員に限りなく近い無機的な声で、胸に添えつけている
小型通信機に呟くように言うナイトは、人間であるにもかかわらず、AD的で
ある。
ナイトは音もなく教会に忍び込むと、耳を澄まし、ターゲットの呼吸を聞き
分ける。
・・・・かなり呼吸が乱れていることを確認するとその音を伝ってターゲットの
いる部屋の前まで浸入した。
「誰です?」
扉の外からナイトに向けて声がかけられる。理由は未確認だが自分が発見さ
れたことを認識すると、扉を蹴り破り高周波ブレードを抜き部屋に特攻する。
先手必勝と言うわけである。
部屋の中には傷を負った黒人女性とその手当をしているであろう神父がいた。
「ターゲット、外見不一致。呼吸音、心拍数はターゲットの者と確認、なんら
かの形で外見を変えたものと断定し、ターゲットとして認識。
民間人の目撃者確認。呼吸音、心拍数、機械音より、非合法サイバーと確認。
ターゲットの協力者と断定し、抹殺の許可を要請する」
ナイトの無機的な報告に小型通信機は無言のままである。ナイトの要請に許
可が下りないと言うことは、黒人女性と神父には手を出せないと言うことにな
る。ナイトはその場を撤退せざる得なかった。
「あなたは何者ですか?」
神父がナイトに質問する。それと同時に、黒人女性が超人的な跳躍力とスピ
ードでナイトに牙をむき出しにして首に向けて襲いかかる。
ナイトは右腕を盾にして急所は防御できたが、高周波ブレードを落としてし
まう。
黒人女性はそのままナイトの右腕を咬みきる勢いで咬み付き、その力が徐々
に強くなる。そして、ゆっくりと女性の体に闇色の体毛が生えはじめ、骨格そ
のものが猫科のものへと変化していく。
「ターゲットは、シェイプチェンジ能力があると確認。外見もターゲットのも
のと一致、ターゲット確認。これより任務遂行する」
ナイトはそう通信機に報告すると落とした高周波ブレードを足で蹴り上げ、
左手で取ると、豹の傷口と寸分違わない位置に突き刺す。
豹は激痛に悲鳴を上げる。その隙にナイトは高周波ブレードを豹の口に突き
刺そうとしたとき、無数の銃撃がナイトに向かって襲いかかってくる。
ナイトはとっさに銃弾の雨の中心から逃れたものの、全く無傷と言うわけに
は行かなかった。ナイトは火薬の臭いで満たされた部屋の奥に牧師がいること
を確認すると、状況不利であることを認識し、そのまま部屋から脱出する。
ナイトはかろうじて教会から逃げ出せたものの教会の門までたどり着くと、
力つきてその場に倒れ込んだ。
「もしもし、どうなされました?」
ナイトは朧気な意識の中で聖母の声が聞こえたように感じた。