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●真理逢そのA
 真理逢は待合い室で待ち続けた。
 シスターの恰好をしているだけに、病院に訪れる人達には怪訝な視線
を当てられ、聞こえそうで聞こえない陰口が叩かれてきた。
(あの方は大丈夫なのでしょうか)
 真理逢はそんな服装だけからくる不当な差別など気にもとめず、ただ、
病院まで連れてきた男の無事を神に祈っていた。
 そんな真理逢に1人の医師が話しかけてきた。
 医師は機械 よりも無機的な目で真理逢を静かに威圧するように見お
ろす。
「内藤君なら何の心配もありません」
 医師の口調は真理逢にさっさと帰れと無言で言っているようだ。
「内藤? それが彼の名前なんですか?」
「そうです。ICチップで身元は確認しました。では」
 医師は言いたいことだけ告げると、そのまま病院の奥へと進んだ。
(あれだけの怪我で大丈夫ですって? そんなはずはないわ。せめて、
あの内藤さんの無事な姿を一目見なければ信じられませんわ)

●工藤香子
 そして、喫茶ルナ。
 中には神崎恵子とお客のサラリーマンの恰好をした男が新聞を広
げてコーヒーを啜っている。
 脱出成功したジョーと女医は喫茶ルナに到着すると、太陽のよう
に輝く笑顔で神崎恵子が迎えた。が、恵子の表情は膝の部分がボロ
ボロのツナギを着たジョーを見て表情が曇った。
「どうしたの? 丈太郎君、それに香子も一緒に・・・」
 恵子と香子と呼ばれた女医は、工藤香子と言う高校生の頃からの
友人である。また、恵子は父親が遺伝子学の顕位であるため、大学
は遺伝子学科に進み、香子は精神科に進んでそれから余り連絡を取
っていない古い友人である。
「いや、ちょっとね」
 ジョーははにかみながら、ちょっと羽目を外したことに反省して
いるように頭の後ろをポリポリとかく。
「それより、恵子。聞いてくれる?」
 それから、香子の話が始まる。

 工藤香子はいつも通り仕事をしていた。
 そして、たまたま通りかかった病室に、けが人が運び込まれたの
だ。それが、なかなかハンサムだったので、看護婦達はその噂をし
ていると、香子は看護婦達に患者のうわさ話はしないように忠告す
る。そうでなくても、病院の患者は体が弱って自分に自信が無くな
り、自分の名前がちょっとでも聞こえてくると、悪い噂だと信じて
疑わないものだ。そして、患者本人の中で妄想が妄想を呼び、いつ
のまにか死の病までに発展させられ、自己回復能力までに影響して
しまう場合もあるのである。
 これは、自分が悪い病にかかっていると思いこんでしまうことで、
実際に、脳から、悪くもない部分が悪いという情報を与えてしまい、
適切でない自己回復を行ってしまい、状態を悪化させてしまうこと
があるのである。
 その後、噂のけが人の隣の病室に向かった所、ドアが半分だけ開
いていたので、ドアをしめようとしたとき、不意に病室の中が視界
に入った。ベットの上には1人の無表情な男と、病院でも無愛想だ
がハンサムだと評判である黒輝颯馬が2人で話をしていた。
(あら、黒輝先生が患者とお話しするなんて、珍しいわね)
 香子は好奇心から、そのままその会話を立ち聞きすることにした。
過去に精神科にいたことのある香子は、いつもと違う行動をする人
間がいると、ついそれを観察してしまう習慣が付いてしまっている
のである。
「どうした、ナイト、お前らしくない。このミスはキングに報告せねば
ならんな」
「・・・・好きにしろ」
「とは言え、これだけ弾丸を喰らっていながら、それを急所を外し
て、この回復力だ。さすが、チェックメイトのナイトだ。
 神崎が私とルーク、そして4人のポーンを教会に出せと言って来
たぞ」
「・・・・」
 ナイトは感情と言葉を置き忘れたかのように沈黙を守る。
(神崎?)
 香子は聞き覚えのある名字に心拍数が上がることを自覚しつつ、
息をひそめる。
「任務失敗した身としては言葉が無いと言う訳か。
 良いだろう。とりあえず、教会にはルークと4人のポーンを向
かわせる。お前はどうする?」
「キングからの命令がない限り、任務は有効だ。それより、ビシ
ョップ。そこに隠れている女医はお前の手下か?」
「なんだと! 誰だ!」
「すいません。病室を間違えてしまいましたわ」
「その割にはずっと聞いていたな」
 患者の方はここに来たときからすでに気が付いていたようであ
る。颯馬はナイトを睨み付ける。
「全てを聞いてしまったようだな」
 颯馬は蛇のような冷たい視線で香子を睨み付ける。
(・・・・2重人格者・・・・違う、普段の黒輝先生は仮面を被って超自
我で、このイドを押さえつけてきたのね。だから、いつもは口を
閉ざすことでイドを押さえつけてきた)
 香子は咄嗟に颯馬の精神分析をしたのだ。
 そして、香子は本能的に颯馬に嫌悪を感じ、肩がつかまれた瞬
間、彼の股間を蹴り上げ、逃げ出したのだ。

「と言う訳。でも、なんで私があそこに隠れていたのが解ったの
かしら?」香子は腕組みをして少しだけ考えたが、言葉を続ける
ことにした。「後は丈太郎さんに助けられてここまできたのよ」
 ジョーは目を丸くし、恵子は呆然としている。
「お勘定」
 さっきまで新聞を読んでいたサラリーマンが恵子に微笑むと、
恵子は一礼をしてそれをやり過ごした。恵子は、さっきのニュー
スで殺された被害者の顔と何となく印象が重なったが、他人のそ
ら似だと思い直し、香子達の方を向いて話を戻した。
「父は・・・・YS製薬に研究医として招待されてから、3年前に行
方不明になっているの・・・・」
 恵子はうつむきつつそう呟いた。
「と、とにかく、俺の知り合いに探偵やっている人がいるんだ。
その人に調べて貰うってのはどう」
「それは良い考えかも知れないわね」
 香子はジョーの意見に同意する。
カランカランカラン
「あ、い、いらっしゃい」
 さすがの恵子の笑顔も雨模様である。
 入ってきた客は九重神一郎である。
「あ、ジンさん。ビックニュース!」
「丈太郎さん!」
 香子がジョーを戒めるように呼び止めるが、ジョーは振り返
りつつ、ウィンクをする。
「大丈夫、噂をすればなんとやらで、この人が探偵なの」

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