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●神崎耀
 花岬明子のきめの細かい黒髪は夜風にフワリとなびく。明子の
隣には神崎耀がいた。
「今日はありがとう」明子はニコリと微笑み一礼をする。そんな
明子の反応に頭の後ろを照れ隠しに掻いてニヤニヤする耀。
「いや、その、たいしたことじゃないよ。うん。なんか最近LD
の中も物騒だしね。それじゃ」
 耀は内心もっと決まるセリフを考えていたものの、いざ実行と
なると、こんなセリフしか出てこなくなる。そのあげくに、その
まま逃げるようにその場を走り去ってしまう。
 そして、耀はふと正気に戻り、喫茶ルナで知った担任の内村の
突然の死が現実であることを思い出した。
 別に、担任とはいえ、それほど好きでもない人間であったのに
も関わらず、身近な人間の死と言うものは、死のリアリティーを
連想させずにはいられない。耀もその例外ではないようで、少な
からずショックであるようだ。
(いったい、どうしたんだ?
 担任の内村、嫌な奴だったけれど、いざ死んでしまうとこんな
もんかなぁ・・・・)
「ア・キ・ラ?」
「だれだ?!」
 耀は周りを見渡すと、無人の夜道の光景ばかりが広がる。街灯
が完備されているので、暗やみに紛れるということはないだろう。
 ただ、昼よりも暗い。人間は外界の情報を視覚より7割ほど得
ている。その為、暗くなることで視覚の機能が制限されると、人
は恐怖に襲われる。恐怖の根元とは未知の情報である。一番必要
な、外界の情報が抑えられれば、人に恐怖心が現れてくるのは当
然である。
 また、客観的な情報が無いことを良いことに、主観的な妄想が
あり得ない現象を浮かび上がらせ、一層恐怖心を煽るのだ。
 耀だけ、その例外であるはずがない。
 周りにだれもいないのに自分を呼ぶ声が聞こえたような気がし
た。「幻聴だろうか?」心の中で耀は自分に言い聞かせるように
何度も呪文のように唱える。
「アキラ、あきら、耀」
 いや、現実だ。人間の声のようで声ではなく、人あらざる者で
あるように確信は出来る。耀は立ち止まりもう一度周りを見渡し
た。
 誰もいない。誰もいないのに自分を呼ぶ声がする。あり得ない
ことである。目に見えない人間などいるはずもなく、それこそ妄
想である。
 耀はもう一度何処から聞こえてきたのかじっくり、幻聴を思い
出してみる。右、左、前、後ろ。
 何処でもない。いや、聞こえたのは・・・上だ!
 耀は声のしたであろう真上を見上げると猫のようなしなやかな
体を持った人間が、細い木の枝の上に乗っていた。
「耀、耀だね? ずっと探していたよ。お前を見つけるまで5人
も殺してしまった」
 猫人間はそのままひらりと木の枝から飛び降り、華麗に着地す
る。
「な、なんだ、お前は」
「なんだはないだろ。兄弟、いや、分身君。そんなに恐がること
はないよ。君の居場所は分かったんだ。いつでも君の所にこれる
からね。そこで、相談だ。明日の夕方、教会まで来てくれないか
なぁ?
 他に紹介したい人がいるんだ」

●矢島智樹
 矢島智樹は眉間にしわを寄せ、被害者のデータをディスプレイ
越しに見比べる。
 コンピュータ技士、メカニック、女新聞記者、LDオペレータ、
そして、教師。
 職業、人間関係、趣味、ネットワーク等での接点はまるでない。
共通点はまるでなし。
「ああ、わからんな。こうなりゃ占い師にでも占って貰うか」
「何言っているんですか、矢島さんらしくない」
 矢島にコーヒーを持ってきたのは神崎彪雅である。がっちりし
た体格に、小さめのコーヒーカップは更に小さく見せる。
「ああ、神崎か。このヤマ、まるで駄目だ。共通点と言えば血液
型ぐらいしか見あたらない」
「血液型が殺人の動機? そりゃ、無差別殺人よりたちが悪いで
すね。ところで、その血液型は?」
「この日本で一番多いと言われているA型だ」
「ありゃ、俺も従兄弟の姉弟もその対象だ」
 彪雅は方をすくめ、苦笑すると、智樹も眉間にしわを寄せて笑
った。

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