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●綾小路ゆうあ
綾小路の取材が始まった。富樫は最後まで不服そうに腕組をし
ていた反面、取材についての気をつけるべき点をゆうあに指摘し
ていた。憶測で判断するな。へたに自分の意見があっても、相手
に意見するな。ジャーナリストはまず、真実を知る義務があり、
真実を伝える義務がある。
取材は聞き手に徹する。富樫のアドバイスを元に、取材を始め
る。
まずは、情報収集だが、富樫の紹介で、探偵の小川真琴を紹介
してもらった。ゆうあは早速、メールを出し、連続殺人事件の犠
牲者の身元調査を依頼した。
●小川真琴
ディスプレイを見つめるのは小川真琴、さっぱりした髪型に中
性的な容姿の上に、華奢な体つきが、女の子を思わせるが、化粧
っけの無さと女性独特の甘い雰囲気が無いところから男の子のよ
うな印象もある。そんなところからマコトの性別の判断を難しく
させている。
新しい依頼人、綾小路ゆうあの依頼をうけ調査を進めている。
連続殺人事件の犠牲者の身元調査である。
調査と言っても、自分の足を使って調査するのではなく、目の
前の端末を操作することで、さまざまな情報を取り出してくる。
コンピュータ技士とLDオペレータはハッカー仲間である事を
突き止めた。YS製薬について調べていたらしく、殺害されるま
で、リリトというハンドル名の人物と連絡を取り合っていたこと
が仲間のハッカーから証言が取れた。
マコトはこの二人の共通点を基に、「YS製薬」と「リリト」
について調査を始めた。
正確なキーボードの操作は次第にさらにスピードを上げてゆく
が、その正確な操作は依然変わらない。
(ちぇ、まただ。YS製薬のガードは結構固いぞ)
こんな時、タクの技術力の高さを思い知らされる。というより
も、タクの思い切りの良さと言うべきかもしれない。
マコトは危険を察知すると、危ない橋は渡らないようにしてい
るのだ。とりあえず安全圏で調べられる情報をドンドン集め、す
ばやい手さばきでキーボードを操り、「YS製薬」について調べ
た。「リリト」に付いてはアダムの最初の妻であったり、男性を
誘惑する女の悪霊でであったり、どうやら、伝説や伝承に出てく
る人物か悪霊と言うぐらいしか検索に引っかからない。
(さてさて、ここからどんな結論を導き出せばいいんだろうな)
●ナオ・ベルディス
ナオ・ベルディスと富樫慶次郎は礼服を着て公園のベンチに
座っていた。
「おい、偶然にしてはできすぎていないか?」
富樫がつぶやくように言う。
「さぁな。おまえは、同僚の女新聞記者。俺はダチのメカニッ
クが例の連続猛獣殺人事件で殺された。
犠牲者になったことは悔しいさ。
だが、だからといって無理矢理結び付けるのは、新聞記者
の悪い癖じゃないか?」
ナオの言葉に富樫は苦笑する。
「たしかにな・・・だが・・・共通点があるとすれば・・・
おまえならどう考える?」
「まさか! 神崎塾の・・・」
富樫は無言で頷いた。
●十六夜
姫崎組の看板が掲げられている門の内側には、数十人のガ
タイの良い男達が、それぞれの手に凶器を持って倒れていた。
そこに立っていたのは、長い黒髪の女性型AD、十六夜と
一人の若者だけだった。
若者の名前は滝沢翔一。十六夜がたった今壊滅状態にした
姫崎組の組員である。
「ありがとうよ。これで、おれも佐々木組の幹部になれる。
で、情報だが」
佐々木組とは、姫崎組と対立していた暴力団である。
「もう調査しました。あなたは何も知らないことは知って
います。でも、この組には、私に必要なさまざまな情報が
あったのです」
「やっぱり、あんたはすげぇぜ。どうだい、俺の・・・」
「無理です」
十六夜は滝沢が言葉を終える前に返事を返す。
「おいおい、俺は・・・」
「あなたは、私を用心棒にしたいのでしょう。それも法
外な金額で。しかし、私のマスターは東郷竜之介とプロ
グラムされています」
「やれやれ、まぁ、いいや。あんたのおかげで、夢の第
一歩が踏み出せたぜ」
「滝沢組を創立させることと、このLDの裏社会の掌握
ですね。可能性としては今のところ、40%ですが、が
んばってください」
「おい、40%ってなにを根拠に・・・」
「あなたの潜在能力です。私には状況分析のプログラム
として、さまざまなケースの人間の潜在能力を分析する
データを所持しています。
あなたのようなタイプは、自覚されていないでしょう
が、他人の能力をうまく使うことに優れています。
大欲は無欲に似たり。
姑息な手段で相手を利用しようとすれば、あなたの
ようなタイプはいつか、裏切られます。
小さな欲望に目が眩まなければ、夢はかなうでしょう
ね」
●AT−0023
「旅立つ? それはなに?」
人形のようにきょとんとして神崎博士に質問する。
「外の世界を見て、自分が何者かをしることだよ」
「自分?」
「そうだ。エレン」
「エレン? それは?」
「君の名前だ。
さぁ、いくんだ。教会には私の子供たちがいる」