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●喫茶ルナ
カウンターに立っている神崎恵子は大忙しだった。
昔同級生だった工藤香子、アルバイトの轟丈太郎、ミラーシェイドをかけた
九重神一郎はもとより、他に何人かのサングラスをかけた怪しげな客が入っ
てきて一斉に注文したからだ。
彼らは恵子を観察するようにメニューを注文していた。いつもなら従兄弟の
神崎彪雅が一にらみで追っ払ってしまうのだが、あいにく彪雅はここにはいな
い。
「ねぇ、大丈夫、恵子?」
工藤香子が恵子に小声で声をかける。
「ばかねぇ、いちいちお客さんを怖がっていたら何も出来ないじゃない」
「大丈夫だ。俺はしばらくここにいる」
ジンは残りのコーヒーを一気に流し込み、追加のコーヒーを頼んだあと、小
型の端末をカウンターに置く。
「なるほど。ちょっと不自然だけどここを事務所にしちゃうわけッスね」
轟丈太郎が言うと、ジンは静かにうなずく。
「まぁ、それなら安心できるわ。じゃぁ、丈太郎君。悪いけど病院までお願い。
調べておきたい事があるの」
「アイアイサー。あ、そうそう、ジンさん。病院探ってから、ちょっと教会に行っ
てみますね」
丈太郎は敬礼の真似事をして外に出る。
「あ、あの私の意見は?」と恵子。
「悪いがいらない。客の俺が好きでここにいるだけだからな。それに、依頼人
にはいろいろ聞きたいことがある」
ジンの言葉に恵子は、気を取り直して残りの注文されたメニューを作る事に
した。
●AT−0023
AT−0023が教会に訪れると、そこには、牧師が立っていた。
「エイン それが私の名前」
顔を上げながらAT-0023は言う。長い黒髪が流れ、人形のように整った顔
に表情は無なかった。
彼女に熱が無ければ動くマネキンであるかのような錯覚を得る。
牧師は驚きの表情を浮べた。
「エイン・・・なぜあなたが・・・」
「私を知っているの?」
「い、いや、知っている人によく似ていたんだ。名前まで同じだとは驚きだ」
牧師はエインに優しく微笑みかける。
不意に扉が開く。
真理逢である。
「牧師様、一つお聞きしてよろしいですか?」
「なんでしょう?」
「礼拝堂にあるあのたくさんの穴は一体なんで出来たのですか?」
「ああ、迷える子羊をかくまっていたところ、狼が襲ってきた結果ですよ」
牧師は可能な限り抽象的な表現で真理逢にナイトが教会にナゾの神父と
バイオソルジャーを抹殺にきた事件を説明した。
「そうでしたの」
真理逢はうなずき納得したようだ。普通ならもう少し質問をするところだが、
牧師を疑うなど考え付くはずもなかったからだ。それよりも真理逢は次の疑
問が出てきたのだ。
「そちらの女性は?」
「エインです。この者も迷える子羊です。私は少々用事があって病院に行か
なければありません。エインと一緒に街を歩いてみてはいかがですか?」
「わかりましたわ。牧師様。
行きましょう。エイン」
エインは頷き、牧師を見た。牧師は自分のことを知っているものと似てい
るといい、目の前の女性には、さも自分のことを知っている人物のように語
った。いったいどういうことなのか首をかしげたが、目の前の女性が手を引
くので、そちらに向かうことにした。