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●神崎耀(かんざきあきら)
 神崎耀は呆然としていた。
 突然、自分を兄弟、分身と呼ぶ化け物がいるという現実を把握できないで
いるのだ。
 事件現場に向かう矢島智樹は、車を走らせているカーパイプラインから神
崎耀を見かける。特に面識の無い学生だが、学生服は先日殺害された教師
の学校の生徒である事は確認できたのだ。
(やれやれ、一応、保護しないとな)
 矢島は車を止めて耀に声をかける。
「君、ここは立ち入り禁止のはずだよ」
 矢島は警察であることを示すIDカードを見せる。端末なしで人間に身分証
明するためには、身分証明用のカードが必要なのである。
「俺はあんな化け物なんかじゃない!」
「何を言っているんだ?」
「あんな兄弟を持った覚えも無いし、バイオソルジャーの分身なんていない」
 耀は混乱気味に矢島に訴える。矢島はそんな青年は本人の主張を肯定して
やれば少しは落ち着く事を知っていた。
「大丈夫だ。家まで送るから、詳しい事を聞かせてくれないか?」
 耀は矢島の言葉を聞き、弱々しくうなずいた。
 矢島が運転する車の中で耀は独り言のように矢島に話をした。
「俺は明子を部屋まで送って、近道をするために教会のとおりを行く事にし
たんだ。そうしたら何度も、俺の名前を呼ぶ声がしたんだ。回りを見たけれ
ど誰もいない。それは上にいた。猫みたいに木の枝に座った化け物が」
「化け物?」
「なんていうのかな、猫人間。そう猫人間が俺の事を分身って言ったんだ。
そして俺を見つけるまで5人殺したとも言っていた。そして、明日の夕方、
教会に来いって…」
耀がそういうと、矢島の運転する車はちょうど家に着いたようだ。
「気をつけてな。それと教会には行かない方が良いな」
 矢島は耀を下ろすと、車の端末から警察署のサーバーにつないだ。
「矢島だ。被害者の通院歴をしらべてくれ…」
 すると、車内の液晶ディスプレイにはYS製薬に関連する病院が並べられ
ていた。
 矢島は眉間にさらに深いしわを寄せた。

●九重神一郎(ここのえじんいちろう)
 喫茶ルナ。
 九重神一郎が事務所代わりに席に座る風景も異質だが、数人の黒服
の客がいくつかの席を埋めていた。
 九重神一郎は端末から神崎博史について様々な情報を検索していた。
 分かった事は、神崎博史は遺伝子工学の権威である事、そして、バイオ
ソルジャーやサイバーについても遺伝子工学を応用できる事を示唆してい
ること。
 さらには、ヴァーチャルヒューマンを実体化させる研究まで行っていた。
 ヴァーチャルヒューマンの実体化とは、DNAにヴァーチャルヒューマン
の情報を書き込み、それに必要なアミノ酸などを結合させ生物を作ろうとい
う研究である。
 3年前までは研究段階であったことまでは分かった。しかし、3年前突如
行方をくらました。
 ジンはその直後の神崎博史の移動経路に着目すると、見覚えのある飛
行機の便のチケットを取っている事まで探り当てた。
 404便。かつて自分も乗っていたことのある飛行機。
 そう、ジンが全てを失った便である。
 一瞬、ディスプレイにノイズが入った。だが、ジンの目に組み込まれてい
るアイカメラはその一瞬のノイズに見覚えのある顔が写っている事を見逃
しはしなかった。
 その顔はポリゴン質ではあるが見覚えがあった。
 花岬明子の顔であった。
 それと同時に、喫茶店にいた黒服の男達がいっせいに神崎恵子に襲い
かかる。
 ジンは右腕の義手に内臓されているレーザを出力し、青白く輝く手刀で二
人の黒服を切り裂く。
 ジンは行く手をさえぎが、残りの黒服は神崎恵子を捕らえ喫茶ルナの壁を
破壊して外へ逃げ出した。
 ジンが緊急事態を知らせるボタンを押すが、エラーメッセージが表示され
るだけだった。
 ジンは倒した二人の傷口を見ると、機械が剥き出しになり、糸の切れたマ
リオネットのようにうなだれていた。

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