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●ナイト
 ナイトはバイオソルジャー抹殺という指令を遂行したが、指令遂行時に自
分を目撃した人物、神父の排除が終了していない。
 ナイトはチェックメイト本部へ戻り、神父の情報をクイーンに請求していた。
 ナイトは応接室で、どこでもない場所をじっと見つめ、マネキンのように動
かなかった。それはまるで、スイッチを切られた機械のように。
 不意にナイトの正面からホログラフが浮かび上がる。何世紀か前のポリゴ
ンのように角々しい顔には、小学生の描いた似顔絵としか思えない女性の顔
が描かれている。
「相変わらず悪趣味だな」
「あら、そんな減らず口がいえるようになったなんて学習したじゃない?」
「あの神父の情報をだせ」
 クイーンのポリゴンの顔はわざとくしゃくしゃになって、ナイトの言葉に抗議
するが、ナイトの態度は変わらない。
「まぁ、いいわ。面白いことが分かったの。あなたが調査依頼を出した神父は
存在しないわ」
「どういう事だ」
「だから、チェックメイトのホストコンピュータを調べる限りでは存在しないことに
なっているの。つまり、UNIT64に管理されていない存在が、あの教会にいたと
言うことね」
「なるほど、自分の足で探せって事だな」
 ナイトは席を立つ。クイーンはナイトを呼び止める。
「待って、全くせっかちなんだから。だから、私の調べられる範疇じゃないと言うこ
とは、ミミックリーの可能性が考えられない?」
「ミミックリー? そんな過去の遺物が存在するのか?」
「非公式にはね。だから、その手の情報はサイバー工学の得意なビショップが専
門のはずよ」
 ミミックリーとは、機械化された人間のことである。
 サイバー技術はAD開発時に発達した。ADが実用段階になるまで、主戦力になっ
ていたが、現在では義手や義足など医療技術として発達している。
 戦闘能力は、ADを凌駕する事もあるが、ミミックリー部隊の統率、および、維持
は大変な労力と維持費がかかるため、ADが主戦力と変わっていったという背景が
ある。
 現在では過去の戦争の生き残り兵士も存在しているといわれているが、アウトロー
として強奪を繰り返しているという噂もある。
 人間の体をものまね(ミミックリー)したことから、彼らをミミックリーと呼ばれる所以
である。
 LDの新聞社では、彼らは戦争の犠牲者かそれとも単なる無法者か議論が盛んだ。

●工藤香子(くどう・きょうこ)
 病院に刑事が聞き込みに来ていたのを目撃した。刑事はもう少し、清潔感を漂わ
せれば良い男なのだが、刑事と言う職業はどうも不潔である事が条件らしい。
 だが、そんな男臭さが好みの看護婦がいるらしく、刑事に言い寄ったようだ。
 刑事を観察する香子は刑事の方もまんざらではないな。などと、邪推してしまう。
なにはともあれ、刑事の存在がるということは、なにかしらの犯罪が病院に関わって
いるのだろうと感じさせる。そう香子は確信した。
 そういった事もあって、香子は調べる意欲が湧いてきた。
 端末のキーボードを叩く。
 香子は、リリトの警告メールは、人間の心理を利用した一種のセキュリティーである
と予測したのだ。
 特に、なにも仕掛けそのものはないのだが、脅迫文書を突きつけるブラフだけで、大
抵の人間は、ハッキングをしていると言う後ろめたさも手伝って、アクセスを避けると言
うことである。もちろん、ハッカーと呼ばれる人種や、香子のように好奇心旺盛で、かつ
負けず嫌いの性格の人間には逆効果であるが、それはそれで、きっと罠がネット上に
仕掛けてあるだろうと推測できる。
 すると、黒輝の闇カルテらしきファイルが見つかった。
香子は、すぐにそのファイルを開こうとカーソルを闇カルテのファイルに当てた。
 しかし、香子は一瞬躊躇した。
(おかしいわ、こんなに簡単に見つかるなんて・・・まさか、アイスウォール?)
 アイスウォールとは、不正アクセスされ、かつ、その対象ファイルがオープンあるいはダ
ウンロードしようとした時、無限ループを発生させ、アクセスそのものを固定化させ、その間、
警告信号をホストへ発信し、ホストは不整アクセスを逆探知するセキュリティーの一つであ
る。質の悪い物になると、通信を強制切断すると、そのファイルよりコンピュータワームウィ
ルスが解凍され、送信されるものもある。
(もし、これがアイスウォールだとしても、闇カルテがあるということが発覚するのは、黒輝に
とっても不利なはずよ。だったら、交渉するカードは増やしておかないとね)
 香子は思い切ってそのファイルを開いた。
 簡単に闇カルテは開き、その内容は黒輝が隠れてサイバー医としてハーフサイバーや、違
法ミミックリーのオーバーホールを行なっていた事が記されていた。
(やっぱりね。おかしいと思った。あの経歴で普通の医者と言うはおかしいもの)
すると、ディスプレイが一瞬黒く閉ざされたかと思うと、ディスプレイの中に
 女性が姿をあらわした。15,6歳ぐらいの外見で、女性の香子が見ても好感が持てる雰囲気
がある。香子には直感的に彼女が誰か予測できた。
「ヴァーチャルヒューマン? もしかして、あなたがリリト」
『そうよ、私がリリト』
「おどろいた。音声入力の無い端末でも音声で会話ができるの?」
 実際、ヴァーチャルヒューマンの存在は周知の事実であるものの、その存在については謎に
包まれている。
『ふふ、そうね。私はヴァーチャルヒューマンと呼ばれているけれど、ヴァーチャル(仮想)なんか
ではないわ。確かにオリジナルのコピーではあるけれどね』
 リリトはそう言って、香子に微笑みかけると、香子はリリトが自分に対して何かの暗示をかける
のだと悟り、リリトから視線を外した。
『ふふ、なるほど、あの男よりは知恵があるようね』
リリトはそう言い残してディスプレイから消えた。

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