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●AT−0023
 エレンと真理逢は、行方不明となった牧師を二人で探していた。真理逢と
しては、牧師のことも心配だが、このまま教会を放置するわけにも行かな
かった。
 すると、エレンは何かがひらめいたかのように「牧師様はあっち」と言って、
 真理逢の手を引き、YS製薬の前に着いた。
「ここに、牧師様がいらっしゃるの?」
 真理逢はエレンに質問すると、エレンはコクリとうなずく。
「そうね。ここを探してみて・・・あ、エレン」
 真理逢がエレンを呼び止めるが、エレンは守衛のところに「牧師さまはど
こ?」
と言って質問する。
 守衛は何のことか分からないと言いたげに肩をすくめると、突然、うつろな
表情になる。
「ボクシサマハシラナイケレド、ココノセキニンシャニアワセテアゲルヨ」
 と守衛はエレンと真理逢を案内しはじめた。
 エレンは真理逢に手招きをした。
「どうしたの? エレンさん」
「案内してくれるって」
「まぁ、なんて親切な方でしょう」
 真理逢はLDの天井に向かって、主に感謝の祈りをささげた。
 そして、守衛に案内された先は、YS製薬、マツドLDの支店長室だった。
 守衛はノックもせずにドアを開けると、そこには、奥に支店長の席に座る3
0代ぐらいの男性が、おそらく支店長なのだろう。彼は部屋の中央あたりで、
二人の女性がにらみ合っているのを静かに見ていた。その様子から、静か
な交渉による攻防戦が繰り広げられていたのだろうことは推測できるが、
真理逢とエレンにそれを察することは出来なかった。
「ノックもせずにドアを開けるのは無礼ではないかね」
 支店長は守衛をしかりつけた。
「スミマセン、タダ、ボクシサマガドコニイルカシリタイダケナノデ」
 支店長は守衛の後ろにいるエレンと真理逢を確認し、にやりと笑った。
「さぁ、神崎恵子さん。後のお客がお待ちだ。その話は後々ゆっくりしよう。
とにかく耀君をここに連れてくることが出来たら君達の条件は飲もう」
「分かったわ」
 そういって恵子は真理逢とすれ違う。
(あら、あの方、ルナという喫茶店の方に良く似てますわね)
「さて、何の用事かな? AT-0023」
「牧師さまを探しているの」
「ここにはいないよ」
 支店長がそういうと、秘書の飛鳥がエレンと真理逢を出口に案内した。
 エレンと真理逢が病院から外に出て、教会に帰る途中の公園で、一人
でタバコを吸いながら暇そうにしている無精ひげを生やした男が腕時計
を何度もみてそわそわしていた。その男は急いでいるようできょろきょろ
していたが、エレンを見ると、二人の前に駆け寄ってくる。
「いーね、いーね。美女とシスターの組み合わせ。君、名前は?」
「エレン」
「エレンチャンか、シスターあなたは?」
「真理逢です」
「エレンちゃんにシスターマリア。う〜ん。絵になるよ。こんどネットで歌っ
てみない? あ、興味があったらここにアクセスして。時間がないから、じゃ」

●神崎耀(かんざき・あきら)
 神崎耀は花岬明子の誘いで部活の剣道部をサボって、もうすぐ始まる学
園祭に有志参加するバンドの練習をしていた。
 練習は一段落して、耀はマイクを横におき、汗をぬぐう。まだあふれる額
に浮かぶ玉のような汗を拭くのはキーボードの明子である。
「やれやれ、みせつけるね」
 小柄で出っ歯のベースギターの佐藤が二人を茶化す、体格のいいドラム
の鈴木は黙って2リットルのペットボトルの水を浴びるように飲む。
「そういや、おまえの姉貴んとこでたまに顔を見せる、ジョーって人。やっぱ
り轟丈太郎に似てるよな。憧れなんだよね。轟丈太郎。ベースでソロって珍
しいけど、テクニックは鳥肌もんだぜ」と二枚目肌のリードギターの木村。
「あれ、ジョーさんの本名ってなんだっけ?」と鈴木。
「え? たしかとどろき、とかって履歴カードに書いてあったぜ」と耀。
「マジかよ耀、おい、サイン貰ってきてくれ! それと、バンド解散のうわさ
ほんとうかどか聞いてくれ」
「ああ、ボーカルの女の子がプロデューサーと不倫したんだろ。それい以来、
轟丈太郎はバンド活動を休止して、いまはライブハウスで即席のユニット組
んでるんだろ」と佐藤が情報通なところを披露する。
 すると、教室に一人の男が入って来た。
 悲劇を背負った重々しい雰囲気に、大柄な体格にサングラスは、どこかの
やくざの用心棒を思わせる。九重神一郎である。そんなジンに戸惑いを隠
せないのは佐藤、木村、鈴木である。
「何か用でしょうか?」と冷静に問うたのは耀である。
「すまん。おまえの姉さんがさらわれた」

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