ホーム > 目次へ > 小説 > Sun Of Night
●綾小路ゆうあ
綾小路ゆうあは、人気バンド、バードの復活の特ダネを手に入れて、携帯端
末で、先輩の富樫に連絡を入れていた。
「富樫さん。すごいんです。あのバードが…バードが」
「あん、鳥がどうしたんだ?」
「いえ、去年、活動停止した実力派人気バンドのバードが教会で無料ライブを
するんですって」
「そりゃ特ダネだ! 特集を組むぞ。ゆうあ、いま担当している事件は2の次だ!
とにかく何でもいい、取材しろ」
「え? でもぁ」
「ばかやろう! 市民の知りたい情報を流すのがジャーナリストの義務だ!
いいな、これは命令だ!」
●九重神一郎
九重神一郎、影で十六夜の活躍を観察していた。偶然などではなく、今回の
神崎恵子捜索のカギになること、そして、恵子からの依頼である、神崎博史の
捜索に強い関連があるという結論に至ったのだ。
(やれやれ、やはり、直接確認するしかないな)
ジンは、真理逢、エレン、十六夜が教会に戻るのを待つ。程なく待つと、十
六夜たちが帰ってくる。
「BG-2179 TYPE-β、東郷竜之介の最高傑作のADだな」
「そうです。あなたは?」
「なに、ジンというもぐりの探偵だ。東郷竜之介について話を聞きたい」
「わかりました」
「門で立ち話もなんですから、教会の中へどうぞ。お茶を入れますわ」
ジンと十六夜の会話の事情を飲み込めないが、真理逢とエレンはお茶を入れ
るために教会の中に入っていった。
ジンと十六夜は教会の庭にある白いテーブルにつく。ジンは淡々と話を始めた。
神崎恵子の父、神崎博史と自分の兄夫婦とフィアンセを乗せた飛行機に一緒
に乗り合わせていることを思い出した。
兄から神崎博史が有名人であることを告げたのが兄との最後の会話だったか
らだ。
そして、神崎博史は東郷竜之介を教え子としてもっている。ジンの調査では、
東郷竜之介の作成したADであることまでは確認している。BG-2179 TYPE-
β。
目の前の十六夜と同じタイプだ。
恵子について聞き込みをしていると、教会付近で見かけられた後、YS製薬
に訪問するところも目撃していることも確認している。(それからスラム街へ赴き)
東郷竜之介の隠れ家がわかった。
竜之介は常に黒服の男に護衛されているため、下手に手を出せない。
「というところだ。今後、協力してくれるなら、竜之介についての情報を教えよう」
「私も協力させてもらおう」
そこには、竜之介の兄であり、教会の牧師がやって来た。
●ナオ・ベルディス
時間は少しだけさかのぼる。
ナオ・ベルディスは人だかりのある方をみると、シスターとおとなしそうな女性が、
ビラ配りをしていた。
「やぁ、シスターに彼女。こんなところでビラ配りなんかしていないで、お茶でもしな
い?」
「申し訳ございません。お茶なら先ほどいただきました」
「たは、いや、そうじゃなくて…」
「まぁ、手伝っていただけるのですか?」
「いや、わるい。ちょっと忙しいんだ。じゃぁね」
ナオはシスターにウィンクをしてその場を立ち去る。
「やれやれ、なんで俺がビラ配りなんっか…お、上玉発見」
ナオが悔し紛れに周りを見渡すと、長い黒髪に清楚な雰囲気の女性を見かけるや
否や、ナオは女性に声をかける。
「やぁ、彼女。こんなところでなにしてるの?
名前は? お茶でもしない?」
「いいわ。お茶ぐらいなら。私は花岬明子」
花岬明子と名乗る女性は妖艶な笑みを浮かべる。
ナオは明子の笑みに見とれていると、そのまま酒に酔ったような感覚に襲われ、
気を失った。
…
気がつくとホテルの1室。
明子が下着を着けて、全裸のナオの横に寝そべっている。
「素敵だったわ」
と一言言ってナオの白い頬にキスをする。
記憶をたどると花岬とナオは抱き合っていた。左手にやわらかい女性の肌を
愛撫した時の生身の感覚。
(左手に生身の感覚だと?)
ナオは左手で右手を握っても、花岬と抱き合った感覚とは違っていた。
「貴様なにものだ? 俺の左腕は機械だ。なのに、機械の腕になる前の感触を
感じるなんてありえないことだ」
「あら、あなたハーフサイバーだったの。実験は失敗ね。でも、面白い実験結
果だったわ」
明子はあの妖艶な笑みを浮かべる。ナオはまたあの感覚に襲われるが、辛う
じて、明子を捕まえる。体が麻痺しても、既に機械となった左腕に目の前の女を
つかむように命令したため動かす事が出来たのだ。
左腕でつかんだ部分は布を破るように皮膚が破れ、その下からは、サイバー
化された機械が現われた。
しかし、ナオの意識は、そこまでしか記憶していなかった。
…
ナオが気が付くと、そこは自宅のベットの上だった。
「夢か?」
だが、ナオは知っていた。記憶に残ったおぼろげな記憶は紛れも無い事実であ
る事を。