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●ナオ・ベルディス
 喫茶ルナでの事件が起きるチョット前。ナオ・ベルディスは、仕事帰り、ちょうど
喫茶ルナの近辺を歩いていた。
 近くに違法駐車して喫茶ルナに入っていく、つなぎを着た男を見た。
 ナオは見覚える顔に目を凝らす。先日見た、VNETで流されていた教会でライヴ
をしていたバンドの1人に似ている事に気がつく。ちょうど放映される何日か前に、
偶然にもヴァーカルの二人をナンパしたという事実が、印象強かったのだ。とは
いえ、それ以上は気にならなかった。
 それよりも、ナオは違う事で頭がいっぱいだったのだ。
(くそっ、なんなんだ一体。今度会ったらただじゃおかねぇ)
 仕事をしていても、思い出すのはあの女の顔。花岬明子。あの妖艶な笑みの後
の、酒に酔ったような感覚。
 あれ以来、ナオは、明子に似たような女性を見かけると、思わず声をかけてしま
う。
(惚れたのか? …まさかな。俺が女に夢中になるわけが無い。女なんて…)
 自答自問するナオ。これだけ、女性の事で頭がいっぱいになったことはない。実際、
今日の仕事で何度かくだらない操作ミスをしている。
ナオにとって、ナンパは一つのゲームであって、これだけ頭がいっぱいになることはこ
れまで無かった。
(女なんて…)
 これまで、ある意味見下していた女性に、ここまで頭をいっぱいにする事は、ナオ
にとって一種の屈辱だった。だがあの時のことは悪い夢だと思って忘れてしまえば
それだけの事。
 そう、失敗した時のようにそう考えればよいのだ。
 しかしあの時最後に見た、サイバー化された腕。あれが頭について離れない。
 感覚を失ったはずのこの左手の生々しい感触。
今度会ったら何故あんなことしたのか確かめたい。
「あ、あいつ・・」
ナオは路上の端末ボックスに入っている女性を見つけた。
長い黒髪に清楚な外見にもかかわらず、妖艶な雰囲気の女性。
花岬明子。
ナオは今度こそ間違いない、と確信した。
「おい、お前!」
 ナオは路上の端末ボックスの扉を強引に開けた。
 花岬明子は突然の事に驚きの表情をしながら振り向く。
「何が目的だ!? 何故こんな事をしている?」
 ナオは明子に問い正す。だが、明子はナオの胸を力いっぱい押す。押されたナ
オは不意の事に思わずよろけ、その場に倒れてしまう。明子は端末ボックスから
出て、走って逃げ出した。
「ちぃ」
 ナオはすばやく立ち上がり、明子を追った。
(確かめてどうする?
 だが、このモヤモヤした気分が晴れるのは確かだ。
そうさ、オレの気が済むからだ。それ以上でも以下でもない)
そして、ナオが明子を見失った先はライヴの会場だった教会だった。

●轟丈太郎
 轟丈太郎は、YS製薬の本社ビルに向かう。
 YS製薬の責任者と名乗る大空鷹衛が直接コンタクトを取りたいとメールを送ってき
たのだ。
「この前のVNETの話だけど、大空って人からメールを貰ったんだよね
 屈託の無い笑みで、受付嬢に装告げた。
 受付嬢は、目の前に突然現われた有名人への対応に戸惑いながら、とりあえず、サ
イン色紙をジョーに渡して、サインを頼む。
 今度はジョーがあっけに取られるが、快くサインを書いた。その間に受付嬢は大空に
ジョーが訪問してきた事を告げていた。そして、部屋のフロアとルームナンバーを告げ
られた。
「サンキュウ
 ジョーは受付嬢にサイン色紙を渡し、ウインクをして、大空の部屋に向かった。

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