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●神埼耀
「姉さん! 無事だったんだね」
「ええ、耀。ちょっと来て欲しいところがあるの」
「あ、うん。でも、花岬と約束しているんだよ?」
「大丈夫、花岬も後で来るから…」
「そうなの。じゃぁ…でもどこに?」
「YS製薬の本社よ。そこにお父さんがまっているの・・・」

●ナイト
  ナイトは次の任務を待ち、チェックメイト本部にいた。 新たな任務を受けるため、
応接室で、どこでもない場所をじっと見つめ、マネキンのように動かなかった。そ
れはまるで、スイッチを切られた機械のように。
不意にナイトの正面からホログラフが浮かび上がる。何世紀か前のポリゴンのよ
うに角々しい顔には、小学生の描いた似顔絵のような女性の顔が描かれている。
 クイーンだ。
「顔色が悪いわね?」
「薬漬けだからな」
「いいえ、それは精神的なものから来るものだわ」
「精神? それは感情を指すのか?」
「ええ、前回の任務から、あなたのセロトニンとギャバの分泌量が多いようね。
メタンフェタミンを打とうかしら?」
 メタンフェタミンとは覚せい剤の事である。
「やめておく。あれは、後の幻覚症状が強い。幻覚は任務の妨げになる」
「…そうね。今のあなたには危険かもしれないわ。やめておきましょう」
 しばしの沈黙の後、クイーンは大空鷹衛暗殺任務の説明に入った。

●AT−0023
 エレンことAT-0023は、十字架に貼り付けられている男を無言で見詰めていた。
「あなたは…だれ?
私は…だれ?
私に声をかけてくれたあの人はだれ?」
「あなたはAT-0023、神埼博士に利用されようとしている操り人形よ。
 あいつは、あなたの『声』を利用して、LDの人間を洗脳し様としているのよ。
VNETで流したあの曲は、あの男の計画の一つなの。
あんな男の操り人形にならないで、私と手を組まない?
私も、あなたと同じであの男に操り人形として作られた存在なの」
エレンに声をかけたのは、花岬明子だった。

●工藤香子
 工藤香子は病院の食堂でランチを食べながら、黒輝とリリトの関係を考えてい
た。
 なぜ、黒輝のことを調べると、リリトが現われるか。最大の疑問だった。
だが、その答えは向うからやって来た。
「ここにいたか」
「あなたは!」
 香子の席の向い側に座ったのは黒輝相馬だった。
「俺のシークレットファイルを見たんだ。もう隠すことはあまりないと思ってね。それに、
おれは明日でこの病院を去る」
「どういう意味?」
「闇サイバー医だったことがばれてね」相馬の言葉に香子が目を見開く「いや、あん
たのせいじゃない。リリトが憂さ晴らしにやったんだよ」
「あなたとリリトはどういう関係なの?」
「恋人…じゃないよな。今は敵になってしまっているしな。知り合いの作品に夢中になっ
た馬鹿な男さ。
 知っていると思うがリリトはヴァーチャルヒューマンだ。
 3年前のプロジェクトの怨霊かもしれない。あれは実験だった。ハヌマーンというバイ
オソルジャーはしっているか?」
 香子は首をかしげた。
「だろうな。UNIT64は必死にその存在をリストから消そうとしている。いや、俺たちが
忘れるのを待っている。というべきかな」
「おもしろそうな話ね。お話に入れてもらえないかしら?」
 香子と黒輝の会話に入って来たのは、30代半ばの短い髪の白衣を着た女性であり、
その白衣姿が非常に似合っている。その眼鏡は、彼女を知的に見せ、見るからに学者
タイプの女性だった。
 香子は、彼女を学生時代、ニュースメールで見たことがある。
 たしか、天才的異生物学者、小川一砂だったことを思い出す。
「これはこれは、小川女史ですか」
「あら、光栄ね。私の方の自己紹介はいらないようね」
「ええ、工藤女史は彼女を知っているね?」
 香子は黒輝の言葉に頷き、一砂に会釈する。
「ここで外科医をしている工藤と申します」
「で、俺が今日までここで外科医をするの黒輝相馬だ」
「そうなの。ここで最後のお食事なのにお邪魔だったかしら?」
 一砂は眼鏡を取り、白衣でごしごしと拭いて眼鏡の曇りを取る。
「とんでもない。ハヌマーンという単語に反応していただき嬉しい限りです」
「ハヌマーンとはなんのです?」
「バイオソルジャー「Cxs4 ハヌマーン。」本来、バイオソルジャーは単純
な命令や作戦のみ実行可能だったけれど、それだけに、バイオソルジャーの利用
できる作戦も限られていたの。軍部はそれを複雑な作戦も実行可能なバイオソルジャー
の研究を推し進めたそうよ。
 その結果・・・。1つの研究所と1つの師団が壊滅に追いやられたというわけ。
 たった1体のバイオソルジャーのためによ。そんなのじゃ、たとえ、強力な戦
力でも、制御不能なら、それは兵器として役に立たないでしょ。
 軍部は、その事実をもみ消し、封印してしまった…」
「そんなことが…」
「あるよ。実際、世間を騒がせたろう」
「まさか…あの連続事件が」
 黒輝は無言で頷く。
「やっぱり、ハヌマーンだったの。で、そのハヌマーンは?」
 一砂は冷静沈着に問う。
「驚かないんですか? 小川女史」黒輝はあきれ気味に短いため息をつく「見事、
暗殺されました」
「すごいわね。あのハヌマーンを」
「遺伝子にいろいろ細工したそうです。姫崎剛がね」
「姫崎剛? 聞かない名前ね」
 香子は学生の頃遺伝子工学を学んだ事があるだけに、伝説のバイオソルジャー
というのを再現するだけの知識と技術力をもつ科学者は一通り知っているはずだ
った。
「そりゃそうさ。あんたはオレの名前も知らない。知っていたとしても東郷竜之
介ぐらいだろう」
「東郷竜之介? ああ、ADなんかの研究にかまけている学者ね」
 一砂の口調はADのことを毛嫌いしているようだった。黒輝はそんな一砂を見
て苦笑する。
「まぁ、それはいいとして、神埼博士の3人の弟子を持っていたんだ。姫崎剛、俺、
東郷竜之介。そのうち、神埼博士は3年前の事故で死んだ事になっているし、姫崎
剛は、それをきっかけに宗教にぼっとうして、東郷竜之介は部屋にこもって
ADの研究」
「で、あなたは闇サイバー医になった」
 香子は皮肉をこめていった。
「そう。全ては3年前、ハヌマーン再生計画…いや、LDD計画が始まったんだ。その
計画を知った姫崎剛は、逃げ出した。俺も似たようなものだな。だが、東郷は違った。
奴は何かを知っている。LDD計画の真意をな」

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