ホーム > 目次へ > 小説  > Sun Of Night

タイトルへ戻る 戻る

●綾小路ゆうあ
 綾小路ゆうあは、自宅で、満足げに電子新聞の自分の記事を何度も読み直して
いた。
先日の教会でのライブと轟丈太郎、バイクレーサー復帰のスクープをものにしたと
いう大仕事は、上司をはじめ、会社のみんなが誉めてくれた。ただ1人、富樫を覗
いて。
「なんで、富樫さん、ほめてくれないんだろう?」
 さっきまでの笑顔が、暗雲に隠された空のように急に暗くなった。膝を抱えてソファー
に体育すわりをして、電子新聞の記事を眺めている。文字は瞳に映っているが、読
めていない。
「どこか記事の内容がわるかったのかなぁ」
 すると、訪問者を告げるドアホンがなる。ディスプレイを見ると、怪我だらけの富樫
の姿が映る。
「富樫さん!」
「ああ、ゆうあか。この前のスクープの記事、よかったぜ。記事はよかったけど、内容
がLDD計画のはじまりでな。手放しで誉められなかったんだ。内容はこのメモリスティッ
クにある。これをやるよ。またスクープだぜ…。編集長も青ざめるくらいのな」
富樫は言うだけいうと、メモリスティックをゆうあに渡した。そのメモリスティックに、LDD
計画(Life Dome Destroyer Project)というラベルが貼られていた。
そして、富樫は、思い残す事は無いといいたげに、そのまま倒れてしまった。
「富樫さん! 富樫さん!」

●真理逢
「牧師様?」
「ああ、真理逢か・・・」
「実は、先日行われた"らいぶ"というもので、寄付を募ろうかと思うのです。迷える子羊を
かくまっていたところ、狼が襲ってきてできた、穴だらけの壁を修復したいので、その費用
などにあてたいのです」
「そうだね・・・真理逢。君にこの教会を任せてもいいかな? 君にならできるよ。私にはも
うすぐ迎えに来る死神がいる」
「どういうことです?」
「真理逢、私は姿を消していた間、ずっと迷っていた。神は私を許されるかどうか?」
「そんな…、大丈夫です牧師様。神は懺悔さえすれば全てを許してくださいます。何をなさっ
ていたのです? 共に許しを請いましょう」
「私は、昔、神にそむく研究をしていた。それは、神の与えた自然の摂理を乱す行為だ。バ
イオソルジャーの研究。バイオサイバーの研究、そして、あらたな生命の可能性であるヴァー
チャルヒューマンの研究。目的は知らなかった。だが、知らなかったとは言え、薄々感づいて
はいた。だから3年前、私は、他の犠牲者が出ることを知っていて、飛行機を爆破した。猫を
バイオソルジャーにして、離陸したらパイロットを暗殺するようなプログラムを遺伝子情報に
組み込んで…。
でも、神埼博士は、大空鷹衛となって生きていた。
 そして、LDD計画は再度発動された」
「LDD計画?」
「LDを破壊してしまう計画だよ。なぜそんな考えが浮かんだかは知らない。だが、その計画に、
私の3つの作品である、ハヌマーンというバイオソルジャーが必要だった事は確かだ。だが、
私の残している資料では、ハヌマーンは不完全体だ。ハヌマーンは、特定の人間の遺伝子情
報が無ければ、1年にも満たない命だ。
私の3つの作品達は…、研究所を抜け出し、私を頼ってきた。私は彼らを守ってやりたかった。
生きて欲しかった。
だが、それは、多くの犠牲者を出す結果になってしまった。
そして、ハヌマーンは生き残るための遺伝子を持った人間を捜し当てた。その人間が神埼耀。
神埼博史の息子だ」
「しゃべりすぎたわね。姫崎剛。あなたの記憶を操作しなればならないとUNIT64は判断しまし
た。あなたもです。真理逢。
姫崎剛。安心なさい。大空の方は我々が処分します。リリトもあなたの行動次第で寛容な処置
をします」
 教会の牧師の部屋に入って来たのは、片腕の無い黒髪の美女。その片腕からは、機械があ
らわになり、ADかサイバーであることが察する事ができる。
「飛鳥…」
牧師の口から彼女の名前がこぼれていた。

第7話へ

タイトルへ戻る 戻る