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●工藤香子
 工藤香子は、荷物をまとめる黒輝の所にやってきた。
「どうした?
 まだ聞きたいことがあるのか?」
「ええ、あなたにではなく、東郷竜之介にね、居場所を教えて」
「知らない方が良い事もある。闇は闇の中」
「そんなの・・・」
 と、香子が言いかけると、背後から殺気を感じ取り、不覚にも黒輝の
そばによってしまう。
「まったくだ。キングはやりすぎた。UNIT64の意思に逆らったのだ!
 そして、キングの側近のビショップ! 貴様に抹殺指令が下ったよ」
 香子が感じ取った殺気はこの声の主からだった。

 声の主は、身を折って部屋に入らなければならないほどの大男で、背
中から4本のギミックの腕が飛び出ていた。
「ルークか。指令を出したのはクイーンだな」
 黒輝は懐から、タバコを取り出すと、香子がとりあげ、「病院は禁煙
です」と言わんばかりに睨みつけた。
 一瞬、黒輝は生真面目な女医をきょとんと見るが気を取り直して言葉
を続ける。
「まぁ、いい。おまえは運がいいぞ。
 俺に手を出すと、おまえのためにならんぞ。おまえを何度かメンテナ
ンスしてやったのは憶えているだろう?」

「ま、まさか」
 ルークの顔が青ざめる。
「そのまさかさ。超小型爆弾を仕掛けさせてもらった。なに、ちょっと
した保険のつもりだったが、保険の効果がでるとはな。
 まぁ、愛煙家の俺としては、このライター型の起爆装置でタバコを吸
うと見せかけ、一気に爆発させても良かったが・・・。女医に見事にじ
ゃまされてな」
「なによ、そんな事一言も・・・」
 香子は赤面する。
「いったら、不意打ちじゃなくなるだろに・・・。まぁ、そんなわけ
で、ルーク。運がいい。ついでに、取引をしよう。おまえはクイーンに
俺を殺したと報告する。
 その代わり、俺が、起爆装置をはずしてやる」
「分かった、まずは、俺の起爆装置をはずしてくれ」
「ああ、分かったよ。爆弾はオーバーホールしないとはずせない。そこ
に横になれ」
「ああ、わかった・・・」
 ルークは素直に横になった。ルークは爆弾をはずしてもらった直後
に、ビショップである黒輝を殺そうともくろんでいた。
 そして、爆弾摘出の準備がはじめられた。

 1時間後、ルークはオーバーホールされた状態で、気が付くと、黒輝
がなにやら黒い球体のものをセットしていた。
「おい、それはなんだ」
「ああ、これか? 超小型爆弾だ」
「なに・・・だ、だましたなぁ」
「ああ、そうだ。悪いか?」
「あたりまえだ!!!」
「そうか」黒輝は爆弾をルークの体にセットすると、ルークに背を向け
る。
「おい、どこへ行く」
「野暮用を思い出してな。じゃぁな」
「おい、まて、いや、まってくれ、待ってください」
 黒輝はルークの言葉など耳を傾けず、そのまま立ち去ろうとしたと
き、香子が立ちふさがった。
「私も行くわ」
「だめだ。それに、知らない方が良い事もある。闇は闇の中に」
「あいにく、今は外科医をしているけど、専門は心理医療なの。心理医
療はその闇と向き合うのが仕事なの」
「やれやれ・・・好きにしろ」
 黒輝と香子が病院を出ると、ちょうど車がとまる。
「黒輝相馬さんですね?」
「ああ、そうだが・・・」
「私、矢島と申します。ちょっとお話を伺いたいのですよ。LDD計画
について・・・」
 黒輝は面倒そうに頭をかきむしる。
「ああ、その様子じゃ、詳しそうだな。
 車に乗せてあるところへ連れて行ってくれ。詳しくは車の中で話す」
「行き先は?」
「教会だ」

●刑務所
 LDの中にも犯罪者は存在する。
 厳重な警備体制がしかれているはずだった。
 だが、警備しているはずの警備員たちはみな、神崎耀の手によって殺
害されていた。
「さすがね」
 耀の手首に巻かれている、端末の画面には、ポリゴン質の女性が映さ
れていた。クイーンである。
「ニンムカンリョウ、ツギノサクセンノシジヲ」
「次は、新聞社よ」
 クイーンはポリゴン質の顔で微笑みながら、刑務所の牢獄に、催眠効
果のある音楽を流すよう、刑務所の管理コンピュータに指示を出してい
た。
 犯罪者たちは、全員、自分を牢獄に入れた警察を襲撃することを誓っ
た。
 その時、牢獄の鍵が一斉に開けられたのだ。

●綾小路ゆうあ
 轟丈太郎がバイクを止めたのは、LD新聞社のビルの前。
 ジョーは、アイドリングのまま、ヘルメットを投げ捨てるように脱
ぎ、新聞社へ走り出す。
 編集室のドアを開くと同時にジョーは言葉を発する。
「失礼します。たぶん、轟丈太郎の名前で、宅配便が届いたと思うんで
すけど・・・」
 ジョーの言葉がそこで止まったのは、編集室は雑然と原稿が散らば
り、閑散としていたからだ。編集室にいるのは、奥の窓越しにある編集
長の席にどっしりと座る中年の男と、厳しい剣幕で、なにやら抗議して
いる女性記者がいることだ。
 女性記者は綾小路ゆうあである。
「病院で意識不明になっている富樫先輩のメモリスティックの内容と、
この丈太郎さんという方から提供していただいた情報は共通点が多すぎ
ます。
 これをでたらめなんて言うことは納得いきません。
 神埼博史と大空鷹衛の共通点。LDD計画は、神崎博史、東郷竜之
介、黒輝相馬の3人の専門知識があれば、理論的には可能であること。
そして、連続殺人事件とLDD計画との関連性。
 非公式のバイオソルジャー、ハヌマーンの存在。LDの住民を先導す
るための、『声』の存在。
 富樫先輩のメモリスティックには、LDD計画の内容も具体的にあり
ます。
 知能を持ったバイオソルジャーが、UNIT64の通信施設を短時間
で制圧する計画の詳細もあります。
 VNETを通して、催眠効果のある、音楽と映像を流すスケジュール
だって書いてあります。それは、LDの一般市民にUNIT64の洗脳
を解くため、現在の価値観の揺さぶりを行うという目的があることも書
いてあります。
 そして、神崎博史がLDD計画を計画した動機も丈太郎さんの情報か
らわかりました。
 神崎博史はUNIT64による管理社会は人間の本質を失わせるだけ
ではなく、偽りの自由によって、人間を奴隷化させている。と考えてい
た。
 動機だって十分です。
 なぜ、これが新聞の記事に出来ないのですか?」
 ゆうあは珍しく、声を荒げ、編集長の机を叩く。
 編集長は依然黙秘を続ける。
「真実だからだよ・・・」
 後ろから丈太郎が声をかけた。
「君は・・・」と編集長。
「轟丈太郎といえば分かるよね。宅配便が届いたんだから・・・。
 それに、大空はLDD計画を認めたよ。
 だけど、90%失敗だとも言っていた」
 編集長はジョーの言葉を聞くと、驚きのあまり席を立ち、そのまま崩
れ落ちるように椅子に座り込む。
「・・・そうか・・・ならば、この新聞社も危ないな」編集長は力なく
呟くと、正面にいる部下の目を見る「 綾小路・・・。LDから逃げろ」
「ど、どういうことですか?」戸惑う、ゆうあ。
「LDD計画は富樫がひそかに調べていた事件だ。だが、わしは、富樫
に秘密にしていたことがある。LDD計画は神崎個人の計画ではない。
 ある組織が計画を立て、神崎が中心になって進めてきた計画だ。そし
て、わしは、その組織・・・」
 編集長がそういいかけたとき、編集長の背後にある窓が砕け散る。
 砕け散ったガラスの中心には、ナイフがあった。ナイフの鋭利な刃は
編集長の背中に突き刺さり、寸分たがわず、編集長の心臓を貫いた。
 ジョーはとっさにナイフの軌道を算出し、ナイフが投げられた点をは
じき出し、サイバーアイで投擲点を見た。
 そこには、信じられないことに、神崎耀がそこにいた。耀は2本目の
ナイフを構え、ジョーに投げつける。
 ジョーは軌道を算出し、飛んでくるナイフを弾き飛ばす。
 ゆうあは編集長の突然の死に悲鳴を上げ、顔が蒼白になる。
 ジョーはとっさにゆうあの手を取り、部屋を出る。
「な、なにが起こったんですか」
「とにかくついて来るんだ」
「は、はい」
 ジョーはゆうあをつれて、新聞社を出た。そのとたんに、ジョーの肩
にナイフが突き刺さる。
「予測済みってわけか」ジョーが毒づく。
「あの・・・轟さん・・・肩にナイフが・・・」驚きを隠せないゆうあ。
「大丈夫だよ」
 ジョーはゆうあに微笑み、そのまま手を引き、二人はバイクに乗る。
「しっかりつかまって」
「は、はい」
 ゆうあはジョーの背中にしがみ付くようにつかまり、バイクは急加速
して、新聞社を離れた。
 耀は人間とは思えないスピードで走り出し、バイクを追った。

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