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●ルーク
「畜生、ビショップのやろう・・・」
 ルークはオーバーホールされたままその場に横たわっていた。
「なさけないものね」
 抑揚のない、それでいて音楽的な声がする。
「おまえは・・・クイーン・・・なのか?」
「そうよ。インストール完了よ
 ちょうど、あなたの新しいボディが出来たの・・・」
 エレンの姿をしたクイーンは微笑を浮かべた。

●東郷竜之介
 東郷竜之介はYS製薬の本社ビルの前で、トレーラーを駐車させてい
た。
 トレーラーの運転席からは、警察署が何者かに襲撃され、既に、神崎
彪雅刑事以下数名の殉職者が出ていることが放送されている。
 東郷が見上げたビルの窓からは所々煙が出ている。
「どこもかしこも、派手にやってるなぁ。そろそろ、十六夜が降りてく
る頃だな」
 東郷は腕時計を見ると、腕時計の小さな画面には、トレーラーの上に
つけられているカメラの映像が映されている。
 映像は、パラシュートで降りてくる大空を抱えた十六夜が映し出され
ている。
 東郷は、手元のボタンを押す。
 バン。と音が鳴ると、トレーラーの上に巨大なクッションが広がり、
大空と十六夜を包み込む。
「準備がいいですね。マスター」
十六夜はクッションから大空をつれて降りると、助手席に乗り込む。
「ああ、最悪の予想だったが、備えあれば憂いなしだ。
 神崎博士。懺悔しに教会に行きましょうや」
 東郷は鼻歌を歌いながらトレーラーを発進させた。

●神崎恵子
 神崎恵子が目を覚ますと、見覚えの無い風景だった。
 生活に必要なものが最低限そろえられ、男の匂いがつんと鼻につく。

「気が付いたか?」
 そこには、ナオ・ベルディスがいた。
「ここは?」
「俺の部屋だ。耀にあんたをたのまれてな」ぶっきらぼうにナオが言う。
「耀? 耀。負けてしまったのね」
「なんだと? 分かるのか?」
「ええ、耀はいま操り人形のようになっている」
「チィ、自信ありげに行ったくせに・・・」
「耀を開放する方法はあります」
「なんだと・・・」
「耀は、UNIT64に強い催眠術をかけられています。その催眠さえ
解ければ」
「あんたには出来るのか」
 恵子は強く頷いた。
「耀のいる場所はわかるのか?」
 再び恵子は頷く。
「よし、つれてってやるよ。LDの高層修理用のパペットなら、ひとっ
飛びだ。どこに行けばいい?」

●ハイウェイ
 矢島智樹の運転する車には、小川真琴、工藤香子、黒輝相馬が乗って
いた。
「つまりだ。LDD計画というのは、神崎個人の計画ではないというこ
とだな」
 矢島が黒輝の話を聞いてからそう呟く。
「待ってください。ということは、その"ある組織"って何ですか?」
 マコトが質問する。
「龍(ロン)という組織さ」
「ろん? 聞いたこと無いわね」と工藤香子。
「だろうな。闇の組織さ。UNIT64が極秘事項にしている。知って
いるほうがおかしいさ」
 黒輝は苦笑しながら言う。
「おい、すごいスピードで、後ろからノーヘルのバイクと人間が走って
くるぞ」
 矢島は運転席からバックミラーを見て、眉間にしわを寄せて言う。
「そんな、矢島さん。バイクがスピードを出すのは珍しくないでしょう
・・・人間はともかく・・・って、人間?」
 マコトは目を丸くして、助手席から後ろを見る。香子もつられて後ろ
を見ると、バイクと人間が並行して走っている光景が視界に入った。

「信じられないわ・・・」
 香子はかろうじて声に出して言えた様子だった。
「だが現実だよ。あれが、ハヌマーンの完成体だ」黒輝はさもあたりま
えのように言ってのける。
「やれやれ、バイオソルジャーってのは、猛獣かと思っていたぞ」
「どうするつもりなんです?」とマコト。
「見てみぬフリ。と言うのは後味が悪いわ。何とかできないかしら?」
 香子はそういいながら、黒輝に視線を移す。
「完成したハヌマーンに対抗できる方法など・・・ない」
「やれやれ、逃げるしかなって訳だな。予定通り、このまま教会に向か
うぞ」
 矢島はハイウェイを下り、教会に向かおうとしたとき、香子が叫んだ。
「まって、あの子、知ってるわ。前に助けてもらったの。」
「あの時の暴走族か・・・なら利用価値もあるかも知れんな。ハヌマー
ンの足止めできれば助けられるぞ」
「どのくらい?」マコトが質問する。
「数分でいい。その間に、暴走族と連絡をつけて、教会で合流する」
「暴走族が教会に来るのを拒んだら?」と矢島。
「おとりになってもらうさ」黒輝は不敵な笑みを浮かべる。
「分かった。矢島さん、車の端末借りるから、フルマニュアルでよろし
く」
 キキキュキュキュゥゥゥ。
 マコトが端末に手をかけると、車は大きく左右にぶれる。
「おい、いきなり割り込むな」矢島は慌ててマコトに抗議する。
「はは、ごめん、ごめん。そのかわり、時間稼ぎと、暴走お兄さんの連
絡はまかせて。
 教会までよろしくね。元刑事さん」
 マコトの手から機械の指が現れ、すばやく端末を操作する。
 一方、バイクに乗る轟丈太郎と綾小路ゆうあは爆走を続けていた。
「綾小路さん。しっかりつかまって。ちょっと危ない運転をするから」
「は、はい」
「ま、まって」
 バイクに接続されている小型端末の画面からマコトの顔が現れる。
「な、なんだぁ・・・」
「説明は、あと、これから、ハイウェイの防護シャッターを次々落とす。
少しでもハヌマーンとの差を大きくして。教会で合流しよう。じゃ」
 マコトは言うだけ言うと、現れたとき以上に一方的に通信は切られた。
「ちょ、ちょっとまって・・・・」
 ジョーが嘆いていると、背後からハイウェイの防護シャッターが次々
閉まっていく。
「おいおい、ほんとうかよ・・・」
 ジョーはバイクを加速させた。耀も速度を上げたが、バイクほどの加
速力は無い。
 バイクと耀の差は大きくなり、ジョーのバイクが防護シャッターのポイ
ントを過ぎるたびに防護シャッターが次々と落ちてゆく。
 ついに、耀の目の前に、防護シャッターが落ちる。
 ジョーがバックミラー越しにそれを確認し、もう、耀が追ってこない
と確信したとき、人間の手で壊れるはずの無い防護シャッターが破壊さ
れはじめる。
「おいおい、冗談だろう・・・」
 ジョーは再び、バイクのアクセルをふかした。

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