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●教会
 十六夜、東郷、大空の乗るトレーラーが教会の前に止まる。
「さて、博士。最後の懺悔はどこでします?
 LDD計画の最後の切り札のある場所の方がよろしいですか?」
「切り札と言うものは、最後の最後まで取っておくものさ」
 大空がそういった瞬間、十六夜は敵影を確認した。影は銃口をこちら
に向ける。
(敵影、確認。ナイト。ターゲット算出、80%・・・大空)
 十六夜はすばやく状況分析を計算し、大空を押し倒し、ターゲットを
弾丸の軌道からはずすことが最善だと算出し、行動に移した。
 バァァァン。
 ナイトの引いた引き金は銃口から弾丸が飛び出し、弾丸は正確に東郷
の心臓を打ち抜いた。
「なるほど。その殺し屋が・・・切り札は最後の最後ってわけか」
「マ、マスター」
 十六夜はすぐさま東郷の下へ走り出したが、今度は十六夜に弾丸が襲
った。
 ADである十六夜が対人兵器としての銃など跳ね返すはずだった。
 だが、ナイトの放つ弾丸は、すべて十六夜のウィークポイントを寸分
たがわず命中し、十六夜の体が思うように動かなくなってしまう。
 ナイトは銃を下ろし、そのまま大空に歩み寄り、主人に従属するよう
に肩膝をつく。
「残念だったな、東郷、十六夜。私はチェックメイトのキングなのだ
よ。私はUNIT64に死んだと思わせたかった。だから、ナイトに私
の暗殺命令を出させたのだ。
 今生の別れだ。東郷。何か言いたいことはあるかね?」
「地獄に落ちろ。下衆が・・・」
 大空は東郷の一言に、顔を真紅に染めて、ナイトの銃をひったくるよ
うに奪い取り、東郷の頭に銃を撃った。
「行くぞ。ナイト」
 大空は、ナイトを連れて教会へ入っていった。

 そして、10分後、小型パペットが少女を肩に乗せて教会に到着した。
 だが、そのパペットの頭の部分は、ルークの頭がはめ込まれている。
「新しいボディは調子がいいぜ。クイーン」
「それは良かったわね。あら、先客がいるようね」
 エレンの体のクイーンは、トレーラーを見てそう呟いた。
「教会は大入りだな」
 ルークが新たな教会の訪問者の一団を指差す。
 轟丈太郎、綾小路ゆうあ、矢島智樹、工藤香子、小川真琴、黒輝相馬
が横一列になってやってくる。
「エレン・・・おまえ、どうしてそんな奴と」
 ルークの肩に乗るエレンをみて驚きを隠せないジョー。
「エレン? あはは、私のボディの名前ね」
「どういうことだ?」
「この体、AT−0023はね。私、リリスの器になるように造られ
た、強化人間よ」
「嘘だ! エレン。イーグルやチキン、真理逢はどうした?」
「殺したよ。俺様がな」ルークは自分の手柄だとばかりに、巨体をせり
出し自己主張する。ジョーはルークの言葉が信じられず、頭の中の何か
が切れた。
 ルークは愕然とするジョーを見て、自分の力を誇示できたことを満足
したようにうなずく。
「貴様は許さん」
 ジョーは怒りに髪を逆立たせルークの右腕を取り、そのままパペット
の腕を折る。
「な、なんてパワーだ、ぶひゃ!!!」
 驚き戸惑うルークに、間髪いれずにジョーはルークの顔面にパンチを
クリーンヒットさせた。
「やめておけ。ジョー。こいつはおまえの手を汚す価値も無い下衆だ」
黒輝がジョーの肩を叩き、懐からタバコとライターを取り出す。おまえ
は香子達を守る仕事があるだろう?
 ルークよ。警告したはずだ。おまえには超小型爆弾が仕掛けられてい
ると」
「くろーき。会いたかったぜ」
「俺は二度と会いたくなかったよ」
「ぬかせ!!!」
 ルークが左腕を振り上げた。
「ぶわーかめ。すでに、ボディーは変えたのだ。爆弾など・・・どべし」
 それがルークの最後の言葉となった。
「なるほど。ルークの頭に仕掛けたのね」
 香子は黒輝に呆れ気味に言う。その時、聞き覚えのあるやさしい旋律
が流れてくる。黒輝はとっさに、耳を塞いだが、そのまま苦しそうに肩
膝をつく。
「どうしたの?」
「AT−0023・・・面倒な奴を忘れていた・・・」
 黒輝は恐怖の表情で顔をこわばらせながら、懐から拳銃を取り出した。
「ばかな、AT−0023の歌声は人間の生存本能すらも凌駕すると言
うのか・・・」
 矢島とジョーは黒輝の行動をとめようとするが、体が思うように動か
ない。
 ゆうあとマコトは恐怖で体が動かない。
「黒輝・・・しになさい」
 リリスの一言が黒輝に死へいざなうトリガーを引かせた。
「くろきー!!!」
 香子は悲鳴とも絶叫ともとれる声を上げる。
 香子の整った容姿は、般若のように怒りの表情でリリスをにらみ、リ
リスはそれに後退さる。
「そう・・・あなたは人間の感情を理解できても、感じたことは無いよ
うね」
 リリスは香子の言葉に表情が凍りつく。
「そう、そうよ。私もリリスも花岬明子も神崎恵子もクイーンもAT−
0023も神崎博史に造られた存在。あなたたちのように、すべてを持
って生まれた存在ではない、いわば不良品。
 私は何者? 私は作り物。
 たった一人の科学者の好奇心と虚栄心を満たすために造られた存
在。
 だから、私は私たちの創造主に反逆を起こした。
 そして、すべてを破壊してやろうと思った・・・」
「それは違うわ。リリス」
 今度は上空から、LDの高層修理用のパペットが飛んできた。
 パペットの腕には神埼恵子が抱きかかえられていた。
「恵子!」
「リリス・・・あなたは私がリリトになるように、あなた自身をコピー
したけれど、弟の耀がハヌマーンの完成体になることで、役目が終わっ
たの。
 私たちは役目が終わったの」
「ふん、役目の終わった道具に価値は無い。私たちはあの科学者に
捨てられるだけだ」
「だったら、束縛するものは無くなったことよ。それで私たちは自由じ
ゃない。耀を助けるために協力して頂戴・・・
 そして、あなたたちも・・・」
「どういうことですか?」とゆうあ。
「もしかして、あの耀って子は一種の催眠状態だってこと?」
 香子は腕組しながら納得したようにうなずく。
「だが、どうして俺たちの協力が必要なんだ?」
 矢島は眉間にしわを寄せて首をかしげた。
「そういえば、一砂さんが言ってたな。信じられないことだけど、人間
の強い観念は現実になる。非科学的だけど、事実は事実として認め
ないとって」とマコト。
「で、どうすればいいの?」最後にジョーで締めくくられる。

「あなた方の理想社会を思い描いてください。そして、それは現実にな
ると信じて下さい」
 矢島、香子、ゆうあ、ジョーは一斉にうなずく。
 と、その時、ハヌマーンである。耀が彼らの前に現れた。

●地下室
 一方、大空はナイトを連れて教会にある地下室への扉を開き、DNA
のような螺旋階段を下っていった。
 そして、永遠に続くと思われた螺旋階段も終わり、目の前に扉が見え
た。
「くっくっく、やったぞ。これで、UNIT64をコントロールできる。
 LDD計画の最後の切り札・・・NEO―G0のユニットを利用して
造ったLDをコントロールする装置。
 メインコンピュータは、クローン技術で作った私の脳。
 バーチャルヒューマンを人間にインストールする技術が完成した今。
私自身がこのメインコンピュータにインストールされればすべてが終わ
る・・・」
 大空は狂ったように、独り言を続けようとした時、パスワードを入力
しなければ開かないはずの扉が開いた。
「よう、神埼博士。お先」
 大空の目の前に現れたのは、牧師と無気力な表情で人形のように立つ
スターの真理逢がいた。
「姫崎・・・貴様・・・破壊したのか?」
「ああ。すべてはお見通しだったんだよ。私のオリジナルはね。まぁ、
君の隣のボディーガードまでは予想してなかったようだけどね。
 オリジナルの東郷はある程度博士に共感していたようだけど、なんの
関係も無い、シスターをも実験台に使おうとするのはいただけないな」
 牧師は大空に軽蔑のまなざしを向ける。
 そして、牧師の言葉にナイトが微妙に反応する。
「なるほど。だが、姫崎。おまえは軽蔑している男の手下に殺されるん
だ」
「ふん。ここで俺が死んでも、いままで大事に育てた、おまえの脳のク
ローンは破壊したよ。脳だけは、時間をかけて複製しないといけないか
らな」
「ぬかせ、技術は10年前より飛躍的に進歩しているんだ。何のための
人体実験だと思っている? ナイト、二人を殺・・・せ」
 大空はナイトに命令したが、ナイトの刃は大空の首を切り裂いていた。
「・・・なぜ・・・」牧師が眼を見開きナイトに問う。
「そのシスターは俺の命を一度だけ救ってくれた。だから俺も一度だけ
助けた。キングは俺を裏切った。俺は裏切り者は殺すように教育されて
いる」
「なるほど。恩返しと復讐が、服従の教育に勝ったわけだ。
 ナイトといったかな。君はこれからどうするんだ?
 真理逢と俺はここでやり直すことにしている」
 牧師はそういうと、ナイトは無言で背中を見せて、いずこかへ消えて
いった。

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