闇夜が太陽の光に照らされて、世界は、モノクロームの世界から、色を取り戻す。
日の暮れない日がないように、夜の明けない夜はない。
朝日を浴びた小鳥たちは、歌をさえずり、朝の訪れを他の生き物に伝えて飛び回る。
シン・マーべリックとムーンティア・エクセリオンティアの眠る宿、白き雄鹿亭の部屋も当然例外ではない。
ティアはベッドで深い眠りに落ちている中、シンはソファーを寝床にしている。
シンは、静かに目を開け、ソファーから音を立てないように起きて部屋を出た。
それから、日が高くなり、街の雑踏が耳障りになり始めるころ、ティアが目を覚ました。
当然、ティアはシンがいない事に気が付いた。
「なんだよ。シンの奴・・・・」
つまらなそうに呟くティア。
シンのこうした行動は、大きな街に着いた初日はいつもこうである。
シンは、いつもとぼけて鈍感ではあるが、情報の大切さは身にしみて知っている。
情報源は様々ではあるが、旅の騎士であるシンにとっては、まずは、ナイトギルドに行くのがセオリーだった。
ナイトギルドとは、さまざまな任務を持った旅の騎士が者が集う場所である。
ナイトギルドに所属するためには、当然、ナイトの称号を持つものだけでなければならず、ナイト特有の特殊な任務、極秘の任務などの情報や貴族や王族からの命令および、状況報告のネットワークが組まれている組織である。
これは、騎士の国であるオルフィー王国特有のシステムではあるが、このネットワークは国内だけにとどまらず国外の主要都市にまで伸ばされている。
特に、誰に仕えるというわけでもないシンではあるが、騎士であるシンの重要な情報源でもあるのだ。
そして、この情報こそが、冒険者の生死を左右することすらある。
ティア自身は、そうした背景はしらないが、シンが、ギルドへの顔出しと情報収集にいっていることは、予想がつく。
いつものことだからだ。
そして、トラブルを少々しょい込んでくることがあるというのは、いつものパターンだった。
「・・・それにしても、不思議な夢をみたなぁ」
ティアは、層呟いた後、1つ溜息をついてから、思いなおすように深呼吸をする。
そして、窓を思い切り開けて木々の枝の上でさえずる小鳥たちに向けてやさしく、それでいて物悲しい歌を歌う。
小鳥たちは、ティアの歌声をきいて、ティアを心配そうに顔をのぞき込んでいるようだ。
「ハハ、大丈夫だよ。
シンなんていなくても全然寂しくないさ」
ティアは小鳥たちにそうささやくと、自分の台詞を、だれも聞いていないか周りを見渡してしまった。
「ねぇ、小鳥クンたち。
ボクは強がりを言ってるのかなぁ。
だったらそれはきっとシンのせいだ」
ティアはの言葉は自分に言い聞かせているようにも聞こえる。そしてティアは部屋の窓を思いきり閉めると、小鳥たちは、ティアの独唱が終わった事を悟ったようにいっせいに飛び立った。
飛び立った小鳥たちを窓越しに見送るティアは、小鳥たちが豆粒ぐらいに空に溶け込むぐらい小さくなると、窓の外から視線が感じられた。
(この感じは・・・・)
ティアの心に浮かんだのは、最近の夢の中でよく出てくる女性だった。
その夢は、かなりおぼろげで、よくは覚えてはいない。
ただ、一人の見知らぬ女性だけが印象的で、その女性に漆黒の何かが憑依するように入り込むと、4つの絵画になってしまうという、奇妙な夢だった。
この話は、シンにはしていない。
シンが必要以上に心配するのが目に見えているからだ。
ティアは、シンが心配してくれるのはうれしいが、それよりも、ティアはシンに負担をかけたくなかった。いや、むしろ、何もできない無力な自分ではあるが、シンの役に立ちたいと心から願うようになっていたのだ。
だが、ティアは、争いごとはもちろん、殺生も大嫌いだった。
そんな自分が、できるのは歌うことだった。
しかし、それでは自分をこれまでずっと守ってきてくれているシンの役に立つことはできないと感じていた。
もっと、直接的に、できればシンに感謝される形で役に立ちたかった。
もちろん、それは子供じみたわがままであることは、心の片隅でわかっていた。
それでも、ティアは、心からそう願っていた。
呟き尾形 2005年3月27日 アップ
呟き尾形 2011年3月13日 修正
呟き尾形 2014年5月11日 修正
呟き尾形 2014年6月8日 修正
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