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4枚の絵画 朝の目覚め 4

 

 闇。
 ムーンティア・エクセリオンこと、ティアは、このまま一人で部屋でふさぎこんでいるよりも、窓の外にある広場に目がいった。
 徐々に活気付く人々が、今の自分のうやむやな気持ちを晴れさせてくれるかもしれないとおもったのだ。
 ストークの中心には噴水のある広場がある。
 その広場は、別名、商いの広場と呼ばれ、旅の商人や農家や漁師などの人々が露店を開いている。
 一般に、このような公共の広場に露店をだすには、街を治める領主に税金を納める事で、出店の許可を得ているのが通例ではある。
 そのはずなのだが、全員が全員許可を貰っているかというとそうでもない。
 蛇の道は蛇。さまざまな法や規制の抜け道はある。
 それは、このストークの商業を牛耳るポールという商人によるものである。
 ポールは、ここストークの領主を、政治よりも、遊びにうつつを抜かすようにしむけ、賄賂と、領主にさまざまな借金をさせことで、
ストークの商業的な利権を掌握することで儲けている。
 つまり、ポールは、実質的なストークの支配者であるということだ。
 もちろん、そんなストークの裏事情など、一般市民が知る術もなく、それがポールは、ストーク一番の富豪なのだという認識である。
 それ故に、昨日、ストークに訪れたばかりのティアが知る由もない。
 そのティアは、何の気なしに、その広場をキョロキョロしていると、
黒曜石のブローチが目についた。
 その露店は、黒曜石のブローチ以外は、安物のアクセサリーを乱雑に置かれており、あまりにも場違いだった。
 なにより、ティアが黒曜石のブローチが気になったのは、そのブローチは間違いなくティアの知り合いの作風だったのである。
 ジャール・デミナス。
 流浪の名匠と呼ばれ、数々の芸術的な工芸品を造りだしてきた匠であり、人魚であるティアが人間に興味を持ち始めたのは、目
の前の黒曜石の工芸品の作者との出会いがきっかけでもある。
 ティアは、ふとジャールとの出会いのことを思い出す。
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 ティアがまだ海に何人かの兄と一緒にすんでいたころの話だった。
 ある日、ティアは、地上から、小さな宝石がちりばめられた色とりどりアクセサリーが落ちてくることに気がついた。
 はじめは、誰かが地上から落としたのだろうと思ったが、何日か後に、また同じ作風のアクセサリーが落ちてきたのだ。
 ティアの好奇心は、いったいだれがこの二つのアクセサリーを落とすのだろうと気になり、落ちてくる場所を見張っていた。
 すると、一人の男性がまたアクセサリーを海に投げ込んでいる。
 人魚は、積極的に人間とはコンタクトを取りたがらず、また、可能な限り人間を避けるようにと、父と兄たちから口をすっぱくして注意されていたのにもかかわらず、声をかけたい衝動に駆られた。
「あなた! 何をしているの!」
 ティアは大声で奇妙な行動をとる男に声をかけた。
「これは、驚いた! ルナそっくりの人魚とは」
 男は、ティアの声にそう応えると、懐からもうひとつのペンダントをティアに向かって投げた。
 ティアはそれを受け取るが、何がなんだかわからず呆然としていた。
「俺の名前は、ジャール・デミナス。
 つまらん、工芸品を造っている。
 先日、年甲斐もなく一目ぼれした娘がいたんだが、これが嵐で海の藻屑になってしまった。
 それは、その供養で造ったものだ。
 まぁ、それを海でひろったのなら、受け取ってくれ」
 ジャールはそういうと、その場から立ち去ろうとした。
「まって、僕、うけとれないよ」
「気に入らなかったら捨ててくれ」
 ジャールは振り向きもせずそう応えた。
「僕の名前は、ムーンティア・エクセリオン」
「月つながりか。憶えておくよ」
 それがジャールの出会いでもあり、すぐ訪れた別れでもあった。
 そして、このような行動をとる人間に強い好奇心を抱いた、始まりの日でもあった。
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 ティアは、思い出に浸っていた自分に気が付き、それが、ジャールの工芸品か確かめるために工芸品を手に取る。
 自由奔放なのだが、それでいて繊細な仕上がりは、他の宝飾の職人には真似の出来ない芸当である。
 それであるが故に流浪の名匠の名を馳せたのだろう。
「おっと、気安く触らないでくれ。一応言って置くけど、それは、あの流浪の名匠ジャール・デミアスの『夜のやすらぎ』と言う名前の本日の目玉商品なんだから・・・・」
 店番の男の子の言葉でふと現実に引き戻されるティア。
 そして、自分は宿屋から何も持たずに外に出てきたことを思い出した。
「ごめん。今はお金がないけど・・・・」
「ちぇ、ひやかしか・・・・」
「パッセル、ここにいたんですね」
 突然、横槍を入れたのは女性の声だった。
「え? あ、君はシャウティー・・・・もうわかちゃったの?」
 巻き毛の少年はシャウティーの姿を見るやいなや、ティアから黒曜石のブローチをひったくり路地裏に走り出す。
「あ、パッセル。待って下さい。あ?」
 シャウティーはかなりおっとりした感じでいうが、元々運動神経は良い方ではないらしい。
 パッセルの後を追おうとするが、安物が並べられた台に足を引っかけて、台の上のアクセサリー飛び散り、アクセサリーの花火があがった。
「ティア、大丈夫かい?」
 ティアの聞き覚えのある声が聞こえる。シンだ。シンはアクセサリーに埋もれるシャウティーを壊れ物を扱うようにやさしく抱き起こす。
「シン!」
「ティア?」
 お互いにこんな所で出くわすと思っていないだけにしばしの沈黙が流れる。その事態が把握できないシャウティーは、パッセルも見失い、ただただ2人を呆然と見ているだけであった。

 

 

 呟き尾形 2005年4月3日 アップ
呟き尾形 2011年3月14日 修正
呟き尾形 2014年5月18日 修正

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