シャウティー・ラウケマップは、今、自分がここにいる経緯を話し終えた。
「じゃぁ、パッセル。それがあの子の名前なんだ」
ムーンティア・エクセリオンは、納得したという口調でうなづきながらそう言った。
しかし、ティアは、ふと少年が、シャウティーに言った言葉を思い出した。
”あ、君はシャウティー・・・・もうわかちゃったの?”
これは、パッセルがシャウティーを知っていたことになる。
しかし、シャウティーの話を聞く限りではパッセルとシャウティーの面識は感じられなかった。
「ねぇ、それって、おかしくない?」
ティアは早速その疑問を、シン・マーヴェリックとシャウティーに伝えた。
「たしかに、それはそうだね。
シャウティーはパッセルと知り合いだったの?」
シンの質問にシャウティーは首を横に振る。
「私は、絵画から送られたイメージでパッセルのことは知っていましたが、実際、パッセルと面識はありません」
シャウティーの返事だった。
「どういうことなんだろうね、シン」首をかしげるティア。
「えっと、シャウティーは、絵画からイメージをおくられたってことだよね」
シンの問いにうなづくシャウティー。
「正直、わからないけど、そのイメージで、シャウティーはパッセルのことをしっていたんだよね」
シャウティーはシンの言葉に再びうなづく。
「で、パッセルはシャウティーの名前と顔、そして シャウティーの目的を知っていたから逃げたということなら、話のつじつまはあうよね」シンはそう応えた。
「でもさ、シン。シャウティーとパッセルは面識もないんだよ。
もしパッセルがシャウティーのことをしっていたら、パッセルはどうやってシャウティーのことを知っていたの?」
「夢さ」そう、シンは呟くようにいうと、今朝の夢の事を、ふと思い出していた。
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夜空の月がやけにまぶしく見えるのはなぜだろう。
シンは音を立てないようにベットから降りると、そっとティアの顔をのぞき込みクスリと笑う。
シンはちょっと物思いにふけった後、思ったことを振り払うかのように首を振ると、そのまま音を立てずに部屋を出た。
シンは、月の光から隠れるようにナイトギルドに向かった。不意に月が雲の中に隠れ、本当の夜の闇に包まれた。
騎士は、さまざまな訓練をうけている。
昼の野戦の訓練もあるが、戦争は昼間にあるばかりではなく、夜襲は戦の常套手段でもある。
騎士の仕事は戦う事であると同時に、さまざまな局面で指揮をとることもまた騎士の仕事である。
指揮をとるためには、伝令の情報と自分の目によって得た現状の情報が重要になる。
”見えない”という状態では、冷静になることは難しいし、そのようなことに気を使うよりも、もっとやらねばならぬ事があるのが騎士である。
そのため、騎士であるシンは、夜目にならす訓練もうけている。
だが、そんなシンもさすがにそこで止まらざる得なかった。
自分の体と外が全く区別が付かない。自然の状態では月や星の光が少なからずあるはずなのに、不自然なほど、自分の体が闇にとけ込んでいる。
シンはとっさに、自然の闇ではないことを察知する。
自然の闇ではないということは、魔法の闇ということだ。
シンの脳裏に映る映像の方がよっぽど鮮明で明るく感じる。
「探したぞ、シン・マーヴェリック。
我が名は、バハトゥーン。ドラグスレイバーを操る者」
「ドラグスレイバー・・・バハトゥーン」
ドラグスレイバー・・・。
それは、5歳の子供でも知っている御伽噺である。
登場する怪物で、12神と7つの魔神の争いのときに、12神の兵がギガスガーディアンという巨人であるのに対し、7つの魔神はドラグスレイバーという竜の化身が先頭にたって争ったという伝説の存在である。
そのドラグスレバーの指揮をとるドラグスレイバーの称号をバハトゥーンといった。
そして、シンは、過去に御伽噺にすぎなかったドラグスレバー探索隊に参加し、その存在を目の当たりにしたことがある。
「汝は試練に耐える覚悟は出来たか?」
バハトゥーンは沈黙するシンに向けて言う。
「試練?」
寝耳に水とばかりにシンは目を見開く。
「・・・・覚悟は出来たかと聞いている。言葉が分からぬか、シン。
では言葉を変えよう。なぜ我が汝のことを探しているかを知りたくはないのか? そして、汝がドラグスレイバーとかかわる運命にあるのか・・・」
呪文の詠唱のようにバハトゥーンの言葉が闇に響く。
シンは、とっさに、この言葉も、ひとつの魔法であることに気がついた。
このままだまっていれば、魔法に取り込まれる。
魔法に対抗するには意思の力であり、意思の力保つためには、今のような混乱と迷いは邪魔な存在である。
シンは覚悟を決めて、試練に乗ることにした。
「受けるよ。その試練」
「ほう。魔法に耐えたか。
それでこそ、あのお方が見込んだ男だ」
バハトゥーンは思わせぶりな言葉を呟く。
(あのお方・・・・どういうこと?
バハトゥーンは、誰かに仕えているってことだよね?)
シンは自問する。
「では、展覧会の開演だ」
バハトゥーンがそう呟き指を鳴らすと、そこは嫌みなほど明るい光に照らされ、白い壁に囲まれた部屋であることが分かる。
四方の壁には、幻想的なまでにふくよかな体格の女性の絵がそれぞれの壁に立てかけられている。
ある絵はシンを挑発するように、木のベットの上で気怠げに寝そべり、ある絵は誘惑するかのように、シンの瞳を見つめ、ある絵にはその汚れ無き美しさに魅了され、ある絵はただ疲れて近くの木に寄り添って眠っているだけなのに、切なげに何かを無言で語っているかのようで目を離せなかった。
額の中の女性達は見るからに幻想的で、実際に存在しない女性であることは確実であったのだが、何よりも現実的な魅力があった。
「汝を挑発するのは夕べの夢想、汝を誘惑するのは昼の輝き、汝を魅了するのは朝の目覚め、そして汝が今見つめているのが夜のやすらぎ」
バハトゥーンは淡々と絵を紹介していく。
「我は汝に願う。この中にいる女性達を絵の中から解放してくれんことを・・・・
真実を知りたければ北の洞窟の中に・・・・」
バハトゥーンはそれだけ言うと蜃気楼のように朧気な存在となり、そして彼女たちとともにいなくなった。
1人取り残されたシンは、夢の中から現実に引き戻されたような虚無感に襲われる。朝日の光と朝の臭いがここにいるシンこそが、本当のシンであることを知らせてくれた。
「あ、あれは、いったい・・・」
シンの口からはそんな言葉しかでなかった。分かっているのは自分はただ単純に混乱していることと、すべてから取り残されたような苦痛に襲われていることだった」
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呟き尾形 2005年4月17日 アップ
呟き尾形 2005年4月24日 修正
呟き尾形 2011年7月10日 修正
呟き尾形 2014年6月1日 修正
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