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4枚の絵画 朝の目覚め 7

 

 シン・マーヴェリックは、偶然にも夢の中で見た絵画と、シャウティー・ラウケマップの話のなかで出てきた絵画の特徴が同じであることに、奇妙なシンクロニシティーを覚えていた。
 シンクロニシティー。
 意味のある偶然とされ、一見、まったく関係のない事柄が、偶然にも関係があるかのように、一致してしまうことである。
 騎士であるシンにとって、そのようなことは、一種の迷信であると切り捨てるべきである。
 なぜなら、騎士は、多くの兵士の命を預かる任務をもつ身でもあるからだ。
 指揮をとるためには、より正確な情報の把握が必要である。
 根拠のない空想や、疑心暗鬼を根拠とした妄想は、もってのほか。ということである。
 しかし、自分が実際に感じた、確信に近い直感も大切にしなければいけないこともシンは経験から知っているし、その直感に何度も救われている。
「シン、どうしたの?」
 ムーンティア・エクセリオンは、珍しく考え込んでいるシンの顔を覗き込むように話しかけてきた。
「あ、いや、シャウティーの話に出てきた絵画が気になって」
「あ、偶然。僕は今朝の夢に出てきたんだよね。
 4枚の絵」
 ティアはそう言いながら、今朝の夢のことを思い出していた。

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「ティア。来てくれたのね」
 ティアは見知らぬ女性に、涙ぐみながら抱きしめられる。
 見知らぬ女性からは、懐かしい甘い香りと純粋な愛情が感じられた。
「なんだか、とっての気持ちが落ちつくな。でも、あなたは一体?」
「お願い。何も聞かないで・・・・今は何も答えられないの」
 ティアの質問が彼女にとって苦痛であるのは、なぜかは分からない。しかし、ティアの強い感受性は、見知らぬ女性の苦しみを感じていた。そして、ティアは見知らぬ女性にしがみつくように細い腕に力を入れる。
「見知らぬ女性さんって、なんだか、お母さん、みたい・・・・」
「・・・・かわいそうなティア。そうね。あなたが良ければ、あなたがこの街に住むって、そう言ってくれれば、私はあなたのお母さんになれるのよ」
「!」
 ティアは見知らぬ女性の言葉を聞くと、突然なにかを思い出したように、見知らぬ女性を突き放す。
 突き放された見知らぬ女性は、歓喜の涙から悲哀の涙に変わる。
「ああ、ティア。予想はしていたけど、やっぱり辛いわ」
「いや、その・・・僕は突然そんなことを言われたから、びっくりしたんだよ」
 あわてて言い訳するティア。
「優しいのね。いいわ、いらっしゃい」
 見知らぬ女性は、ティアを裏路地の方へ案内する。どことなく小汚いドアを開くと、ティアは至福の光に包まれて、一瞬目がくらんだ。
 そこは、純白の壁に囲まれた部屋であることが分かる。
 四方の壁には、幻想的なまでにふくよかな女性の絵が、それぞれの壁に立てかけられている。
 ある絵は、ティアを挑発するように、木のベットの上で気怠げに寝そべり、ある絵は誘惑するかのように、ティアの瞳を見つめ、ある絵にはその汚れなき美しさに魅了され、ある絵はただ疲れて近くの木に寄り添って眠っているだけなのだが、切なげに何かを無言で語っているかのようで目を離せなかった。
 額の中の彼女達は見るからに幻想的で、実際に存在しない女性であることは確実であったのだが、何よりも現実的な魅力があった。
「あなたを挑発するのは夕べの夢想、あなたを誘惑するのは昼の輝き、あなたを魅了するのは朝の目覚め、そしてあなたが今、見つめているのが夜のやすらぎ」
 見知らぬ女性は淡々と絵を紹介していく。
「おねがいがあるの。この中にいる女性達を絵の中から解放して欲しいの。この中にいる女性達を解放することで、あなたの知りたいことも分かるのよ」
「え? 僕・・・・」
 回答に迷っているティアを、優しい眼差しで見つめる見知らぬ女性。彼女の影は朧気となり、姿を消した。1人取り残されたティアは、夢の中から現実に引き戻されたような虚無感に襲われながらも、目をさますのであった。

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 呟き尾形 2005年4月24日 アップ
呟き尾形 2011年7月31日 修正
呟き尾形 2014年6月6日 修正

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