●『展覧会の絵』
「・・・・ど、どういうこと・・・・」
シン・マーべリックは『展覧会の絵』につくと愕然としていた。『展覧会の絵』とは美術品を扱った店らしいのだが、店には大きな額にバハトゥーンとその仲間達が描かれていた。
バハトゥーンが大きく描かれ、彼の傍らにはに仕える神官。
その後ろには杖を持った老魔術師。そして、絵の背景の代わりにあの4枚の絵の女性が描かれていた。
「アルクィンなら白き雌鹿亭で飲んだくれているよ」
聞き覚えのある声に思わず振り返ると、そこにはジョアンナがいた。
ジョアンナは、昨日とはうって変わって、しっかりした服装で、シンは声をかけられなければ、ジョアンナであることに気が付かなかっただろう。
「どうしてここに?」
「ああ、ここの主が今日の客だったんだけど・・・・、白き雌鹿亭で飲んだくれているから、キャンセル料だけ貰って帰ろうと思ってね。
まぁ、おかげであんたに会えたから運がいいんだね。どうだい? 前にも言ったとおり、あんたなら商売抜きでいいよ」
後半は妖艶な笑みを浮かべる。ジョアンナの誘いは、強い理性を持った男でなければ、断れない状況に思える。
ジョアンナの手がシンの肩を抱くと、シンはとっさにジョアンナから逃げるように後ろに下がる。
「・・・あ、いや、そういう意味じゃなくて・・・」
シンは顔を赤らめながらジョアンナから視線をそらしながら言う。
ジョアンナは肩をすくめる。
「あはは、あんた、おもしろいわね」
酒場でテーブルにあふれんばかりに酒と料理が並べられた先にいるジョアンナが大声で笑う。
シンは、少なからず不本意な表情をした。
シンは、これまでのムーンティア・セクセリオンとの旅のエピソードをジョアンナに聞かれて、素直に話していたのに、笑われたのだから。
シンにとっては、他人を笑わせる話ではないのだ。
だが、ジョアンナは楽しそうに笑っている。
「いや、ほんと、シン、あんたは、おもしろいよ。
だけど、ちょっと、ティアに同情するよ」
「そんな・・・
そりゃ、すこしはひどい目にあわせたかもしれないけど・・・」
「そういう意味じゃないよ。すこしは、ティアの気持ちを察してあげな。
ってこと。
でも、まぁ、そこがあんたのいいところか」
ジョアンナはそういって、酒をぐいっと飲み干した後、乳房の谷間がはだけた胸元から、髪飾りをだす。
シンは髪飾りを見ると、プラチナを台座にし、七色に輝く小さなダイヤをちりばめられ、ダイヤの輝きは昼間の太陽の輝きにもみえ、よりいっそうダイヤの輝きを引き立てている。
プラチナとダイヤの精巧な細工が施されているにも関わらず、それは暗殺用の暗器でもあることを、シンは見抜く。
「これは?」
「今日、付き合ってくれた、お礼よ」
「そうじゃなくて、これは・・・」
シンがそういいかけるとジョアンナは目の前の髪飾りが、暗器であることをしらないということを悟った。
「ああ、アルクィンからもらったものよ。代金のかわりにね。
だから、ここは、ご馳走して。
それでね、シン。あんたにいってもピンと来ないだろうけど、ティアも女の子なわけ・・・」
ジョアンナは、シンにウィンクした。
「あ、うん」
シンは、そういいながら、暗器を手を伸ばした。ジョアンナは、シンに恋愛についての心得を語り始めているが、すでにシンの耳には届いていない。
シンが暗器を手に取ってから、シンはジョアンナの説明の声がどんどん遠退き、静かな沈黙がシンの頭の中を支配した時、何か囁くような声が響く。
「「「「寂しいの? シン?」」」」
複数の女性達の声がどこからともなく聞こえてくる。
「「「「クスクス、やっぱり覚えてないのね。私達はあなたに殺されてからずっとあなたのそばにいたのよ。・・・・ねぇ、シン。生きてて何になるの?」」」」
シンは彼女達の言葉を聞いたとき、生きていていることすべてが虚しくなる。
(生キテイテ何ニナル?)
そんな思いが彼を支配したとき、彼は手元にあった髪飾りの先を自分の咽に突きけたい衝動にかられた。
「ねぇ、シン、どうしたのさ、怖い顔して・・・」とジョアンナ。
(気配を感じる。俺に幻覚の魔法をかけた人間が外にいる)
シンは酒場の窓を見ると人影が動くのを見抜いた。
(あれだ!)
ジョアンナは、そんなシンに気づくことなく、話を続けている。
「ところで、ティアの事なんだけどって、どうしたの?」
「あ、いや、ちょっとだけごめん、その・・・急用を」
「ええ、いいわ。ティアをさがしていらっしゃい。
ここは、私のおごり」
ジョアンナは、自分の話が効果があったのだと確信をもった笑みをうかべたが、シンはそれどころではない。
シンが髪飾りをもって、路地裏にでると、 邪気のある笑みを浮かべた少年がいた。
「チェ、失敗かぁ、でもさすがだね。バハトゥーンの言うとおりだ」
少年の声が残念そうに響く。
シンは、少年の外見の存在が偽りであることを直感する。
そして、シンは、少年の外見にだまされることなく、反射的に手にあった髪飾りを少年に向けて投げつけた。
少年の笑みが消え、老人のようなシワだらけの顔になったかと思うと、そのまま断末魔を上げる。
「ぎゃぁぁぁぁ! おのれ若造! なぜお前が【昼の輝き】を持っているぅぅぅ、聞いて無いぞ、ワシは聞いてないぞぉ、バハトゥゥゥゥゥーン!」
老人の断末魔が響くと、老人はそこに倒れ、煙を上げながら口をぱくぱくさせている。
音にならない声は直接シンの頭に話しかける。
「お主の行動により、朝のめざめの女性は解き放たれた今お主は運命の岐路にある。
お主が過去と戦うのなら金のブレスレットを捜すが良い!
過去に背を向け、新しき
道を選ぶのであれば、お主の心の中の姫君を探し出せばいい。どちらも望まぬのならば、お主の欲するがままにすれば良い」
老人の顔を持つ少年は煙のように消え、壁に突き刺さる髪飾りだけの残っていた。
呟き尾形 2005年7月17日 アップ
呟き尾形 2013年10月6日 修正
呟き尾形 2014年7月20日 修正
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