●次の日の出来事 娼婦宿
そして、夜が明け、朝日がチュアランプールを照らして間もない頃。
いつもは、誰もが床についているはずの娼婦宿は、騒がしく、朝の遅いはずのジョアンナすら、現場に立ち尽くしていた。
騒ぎの原因は、4枚の絵画の絵画がおいてあった部屋で、火が上がったからである。
幸い、火はすぐに消し止められた、というより、1枚の絵が燃え尽きると、火は消滅したのだ。
不自然なのは、燃えた絵の下の床や、まわりのものには一切火が燃え移っていないというこだ。
「全く、どうなってんだい。帰ってきたとたんに絵の中の1枚が燃えちまっただなんて」ジョアンナは舌打ちをしながら呟く。
滅多な事では動じないジョアンナの心の中を表すかのように、娼婦たちは無駄な動きと叫び声が響いている。
「そうか、燃えてしまったのは仕方がないとして、残りの3枚は売ってくれるのだろう? ジョアンナ」
明らかに娼婦ではない、耳障りで野太い声が、ジョアンナの耳に響く。
ジョアンナは眉間にシワをよせて振り返ると、そこには、でっぷりふとった大富豪ロレンツォがいた。
彼の両脇には娼婦が抱えられていた。
両脇の娼婦といえば、小娘が父親に甘えるようにロレンツォにべったりくっついている。
娼婦からすれば客の容姿や人柄など関係ない。
金をより多く払う客がいい客である。
「悪いねぇ、あいにくまだその気はないんだよ。それにあたしらの商売は絵を売ることじゃないんだよ。
こっちは、体張っているんでね」
ジョアンナからしても、ロレンツォは、上客のはずである。しかし、ジョアンナにも、プロとしてのプライドがある。
ジョアンナは、自分の仕事以外のことで、金で解決しようとすることには、嫌悪すら感じるのだ。
「それは残念だね」たいして、残念でもなさそうに、ロレンツォは言ったと、一息置いて言葉を続ける「まぁ、本職は今夜も協力するとして、他の3枚も燃えてしまわないように気を付けてくれよ」
ロレンツォの言葉は、ジョアンナにある疑念を持たせた。この男が絵を燃やさせた? しかし、そんなことをしてもロレンツォには何の特がないことに気が付くと、疑心暗鬼になっている自分を戒めてから苦笑した。
●予言
ここは、ホーロスコプス・テッセラの塔。
ムーンティア・エクセリオンは、パッセル少年のまさしく子供だましの手品のショーと、ティアの歌の二人だけのステージをお互いに披露して、夜を楽しく過ごした。
そして、夜は更け、月も眠りについた。
ティアもパッセルも、お互いの技と歌を出しつくしたところで眠りに着いたのだった。
そして、朝日が上っても、ティアが深い眠りについていた。
そして、先に目を覚ましたのはパッセルだった。
パッセルは、悪夢でうなされ、汗だらけだった。
その悪夢から逃げ出すように、毛布を跳ね除け、目を覚ます。
パッセルが周りを見渡し、目覚める直前までの体験が、夢であったことに深い安堵のため息をついた。
「どうしたの?」
さすがのティアも、目を覚ます。
そして、ティアは、パッセルを見ると、パッセル様子がおかしいことに気がついた。
「パッセル? どうしたの?」
「お、お師さんが・・・・また・・・・死んじゃった」
「え? どう言うこと?」
「分からない。でもまた死んじゃったんだ・・・・」
パッセルの謎めいた言葉に混乱したティアの目に、窓の隙間からまぶしい太陽が感じられた。
「そ、そんなことより、昨日はたのしかったよね。パッセル、それにホラ、もう昼だ」
ティアは目の前の少年を元気づけようと、窓を思いきり開けた。その光は心の闇を照らし、心の傷を癒すかのような光だった。
すると、パッセルはパッセル以外の誰かとなりティアに問いかける。
「朝のめざめの女性は解き放たれた! 今お主は運命の岐路にある。お主の過去を知るなら展覧会の絵を捜すがいい! 新しき自分を未来に見いだすのならば、少年の心を捜すが良い! どちらも望まぬのならば、お主の欲するがままにすれば良い」
ティアはその場でただ愕然とするだけであった。
●娼婦宿
結局、少年を探し出せなかったシャウティーは、ジョアンナのいる娼婦宿に向かう。考えてみれば、ここでは彼女以外のあてがない。
実際の懐には、なけなしの数枚の銀貨があるだけで、とてもではないが宿に泊まるような贅沢は出来ない。
娼婦宿についたシャウティーは、ジョアンナの居場所を呼び子に聞いた。
「あのう、ジョアンナさんはどこにいるでしょうか」
「ああ、あんたがシャウティーだね。姐さんは今夜はお仕事で忙しくて帰ってこないよ。で、あんたの部屋は用意するよう言われたから、今日はそこで休みな」
シャウティーは呼び子に案内されて部屋に着くと、そのままベットに倒れ込んだ。慣れない人混みとこれまでの疲労が重なったのだ。
そして、シャウティーは長い長い夢を見ることになる。
呟き尾形 2006年1月1日 アップ
呟き尾形 2013年12月15日 修正
呟き尾形 2014年8月3日 修正
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