●路地裏
ティアとパッセルが白き雌鹿亭を出ると、黒い衣を纏う神官が立ちふさがった。
狂気の魔神アスタローデの神官、バルバロイだ。
「やっと、バハトゥーンの結界から出たわね」
商人の広場で会ったバルバロイと同一人物なのだが、その妖艶な口調は全く別人に思えた。
「「?」」ティアとパッセルは、バルバロイの言葉に首を傾げる。
「さあ、雀ちゃん。
貴方はあたしが渡した翼を付けてきたの洞窟まで飛んでいくのよ!」
ティアには、意味不明な言葉であったが、パッセルには違った。
パッセルは、意識が朦朧としたようにうつろで無気力になり体から力が抜けたように立っているのがやっとの状態に見える。パッセルはバルバロイの言葉に従うように、懐からあのブレスレットを取り出し、自分の手首にはめようとする。
ティアは、ブレスレットから感じる不吉なものを感じ取る。
「だめだよ! パッセル君!」
ティアは直感的に叫んだ。
パッセルはティアの声に、ブレスレットをはめるのをやめた。しかし、パッセルはそれ以上動けず、体の自由を失ったかのようだ。
バルバロイは、ティアをにらみつけて口を開いた「ふん、あなたがあの女の目当てのものじゃなければさっさと殺していることろよ!」
「そこまでよ、バルバロイ」
ティアは、後ろから女性の声が聞こえたので、振り向くと、そこには銀髪の紫色の衣を纏った女性が立っていた。
その女性は、すかさず言葉を続けた「早急に、器を持って北の洞窟に行きなさい!
そうでなくても私は貴方に殺意を持っているのですからね」
「シグルーン!」バルバロイは紫色の衣を纏った女性を見て叫ぶ。
「え? え?」
ティアはこの混沌とした展開についていけなくなっている。
「・・・・、いいわ。とりあえず、小さな器は持っていくことにしましょう。
それに、アルクィンを殺したのは、あのお方の意志よ。私の意志じゃないわ」
「言い訳など見苦しい、立ち去れ! 下郎!」
「いやねぇ〜、女性の癇癪は。
恐いわぁ〜」
バルバロイは、皮肉を言うと、動けないパッセルを抱き上げた、ティアはとっさに体を動かそうとしたが、動かない。
バルバロイ、そのまま路地裏の闇の中に消え去り、ティアの体がやっと動くようになった。
「パッセル君!」
ティアはそう叫ぶが、もう、パッセルの姿はない。
ティアは、残ったシグルーンに向き直った。
「ねぇ、シグルーンさん。どう言うことなの?
パッセルはどこにいったの?」
「未来を切り開くためには傷ついてでも進まないといけないの。
さしずめ、試練と言うべきものでしょうね。
もし・・・パッセルを助けたければ、昼の輝きと呼ばれるプラチナの髪飾りを持つ者と共に北の洞窟へ行きなさい」
シグルーンの言葉にティアは混乱した。
「ねぇ、昼の輝き? プラチナの髪飾り?」
「北の洞窟へ行けばわかるわ」シグルーンはティアの質問にこたえる。
「僕は・・・僕はパッセルを助けたい」
ティアの言葉にシグルーンは静かに首を振る。
「ティア、本当は、行って欲しくありません。
それより、この街はもうすぐ恐ろしい屍達に襲われます。
悪いことは言いませんこの町から離れ・な・さ・い」
シグルーンの体が徐々に希薄ななっていく。
「どうしたの」
「私は、あの方を裏切ったと同時に、昼の輝きの封印を解いたのよ。
鍵は私の存在・・・・サヨナラよ、ティア」
「シ、シグルーンさん!」
ティアの叫びはただその場を虚しく響くだけであった。
呟き尾形 2006年9月24日 アップ
呟き尾形 2014年6月29日 修正
呟き尾形 2014年10月5日 修正
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