ホーム > 目次 > 小説 > 4枚の絵画

4枚の絵画 夕べの夢想 7

 

●『展覧会の絵』
「いらっしゃい」
 シンが『展覧会の絵』という雑貨店の扉を開くと、抑揚のない無機質な声が聞こえてくる。
 シンは彼がアルクィンであるのは一見して分かった。
 アルクィンは、ぼさぼさに伸ばした髪と、不精髭が印象的な彼は、訪問者に興味など示さず、ひたすら手元にある装飾品の細工をしていた。
「その・・・なたに確認したいことがあるんだ。
 展覧会の絵についてなんだけど」
「ひかやしなら帰んな。こちとら忙しいんだ」
 ぶっきらぼうな口調で忙しいとアルクィンは言うものの、まわりをみわたしてみれば、全く暇を持て余していそうな雰囲気なのは誰が見ても分かる。
 装飾品の細工ですら暇つぶしにすぎないのだろう。
 アルクィンの非協力的な態度に肩を竦めたが、ここに初めて来た時の絵のことを思い出した。
「その・・・そうもいかないんだ。
 信じてもらえるかどうかはわからないけれど、おれ、正面の絵に描いてある男に襲われたんだ。
 その男は、バハトゥーンと名乗っていた」
 シンの台詞にアルクィンのシンを見る目が変わる。
 鋭い視線は鋭利な刃物のように、シンを睨み付ける。
 そんなアルクィンを見てあのバハトゥーンとか言う男について何か知っていることが分かる。
「・・・・その男は、たしかにバハトゥーンと名乗ったのか?」
 シンを睨むように鋭い口調で言うアルクィン。
「うん、そうなんだ」シンは頷く。
「・・・・そうか、お前は奴に選ばれたわけか、それではお前に話しておかないといけないことがある」
 アルクィンはそういいながらシンにささやくように、昔のことを瞼に思い浮かべながら口を開いた。
「それは10年前のことだ。おれがまだジャールの兄貴と出会って義兄弟の杯をかわして間もない頃、おれはジャールの兄貴の姓であるデミナスを名乗り始めた。
 それだけ、兄貴を慕っていた、反面、ジャールの宝飾品の腕前に嫉妬していた。
 俺はそれまで装飾品の細工では誰にも負けないと自負していたが、ジャールの兄貴の宝飾品を見たときかなわないと心の奥底から思えた。
 いくら兄貴の真似をしてもそれはダメだった。
 そんなある日、俺達はこの街に立ち寄った。ちょうどその頃、バハトゥーンと言う旅の戦士がこの街に襲う悪魔を退治して、街の皆がそれを祝っていた時だった、この街に住む魔法使いが俺達が一流の細工師であることを知ってある依頼をしてきた。
 それは、4つの宝石と、絵の具を持参して、ある女性のイメージを元に、宝石で装飾品を作り、この絵の具を使ってその女性の絵画を書いて欲しいと
 ジャールは少しだけ渋ったが、その女性を見て気が変わったらしい。
 信じられないくらいいい女だった。確かに美女というには容姿は整ってなかったが、とにかくいい女だった。おれとジャールは彼女に魅了されたかのように仕事にとりかかっていた。
 それが、あんたの言う展覧会の絵、朝の目覚め、昼の輝き、夕べの夢想、夜のやすらぎって訳だ・・・・
 その魔法使いは、その宝石と絵の具には何かが封じ込められているって話をしていたが、その封印が弱くなったとき、バハトゥーンがまた姿を現すだろうっても言ってたな。なんでも、贄がそいつに選ばれるそうだ。
 そして、魔法使いに言われたよ。もし、その贄が俺を尋ねてきたら、自分の所に行くように伝えるように言われたよ。
 そいつは街の中央にある尖塔、フォルスの塔に住んでいた」
「住んでいた?」
「ああ、そいつはもう死んじまったよ」
 そしてアルクィンは義務は果たしたとばかりに面倒そうにシンに帰るように言う。シンはアルクィンがもっと何か知っていそうだが、話してくれないだろうと直観した。それは、シンがこれまで旅をしながら得た交渉の経験上の確信である。
 シンはとりあえず無言で店から出ると、白き雌鹿亭に白き雌鹿亭の親父に何やら話していた男とすれちがう。











呟き尾形 2006年12月31日 アップ
呟き尾形 2014年7月20日 修正
呟き尾形 2014年11月2日 修正

戻る 次へ

タイトルへ戻る 

 


質問、感想などは、4枚の絵画掲示板などに書き込みしていただければ、モチベーションもあがります(笑)