昼の輝き
アルクィンの話を終え、『展覧会の絵』より外に出たシンは、ジョアンナに髪飾りのことを確認するために、娼婦宿にむかうことにした。雑踏の中、白き雌鹿亭の親父に何やら話していた男とすれちがう。
シンは反射的に振り返るが、その姿は既になかった。
(さっきのは・・・白き雌鹿亭の親父をバハトゥーンと呼んだ邪神の神官だ・・・)
なぜ、ここに邪神の神官がいたのかはわからない。
ただ、今はそれよりも、ジョアンナに髪飾りのことを確認することがさきだ。
シンは、ジョアンナのいる娼婦宿を目指すが、そこにはジョアンナはいなかった。
若い娼婦がシンをジョアンナの応接間に案内する。
「シンさん。とりあえず、ここで待っていて。女将さんはもうすぐ帰ってくると思うから」
そういいながら、娼婦は、シンを品定めするように見た後、口を開いた。
「確かに貴方は女将さんの言うとおり女性を惹き付ける魅力がもっているわね」
シンは娼婦の言葉に顔を赤らめる。
若い娼婦はフフと笑いながら言葉を続ける。
「でも、貴方は自由に空を飛んでいるから魅力的なのね。
貴方は私達女性に縛られると急にしおれてしまいそうなタイプの男性ね。
あたしみたいな商売をしてると、それが良く分かるの。でも、貴方みたいなタイプがあたし達女性の敵ね」
シンはどう反応していいのか苦笑いして黙っていると、若い娼婦は、クスクス笑いながらその場を去っていった。
そして、シンが応接間にはいると3枚の絵が飾られていた。窓から射し込む太陽の光は3枚の絵の美しさをいっそう引き立てた。
昼の輝き、夕べの夢想、夜のやすらぎだ。夢の中ではぼんやりしていたが、間違いなくこの3枚の絵は夢の中で出てきた絵だと言うことが分かる。窓から射し込む昼の輝きは、絵画を祝福しているようにも感じられた。
すると、昼の輝きが燃え始める。
「あ、あの絵と一緒」
「なに、もう一枚あったのか?」
「ええ、もう一枚も火の気もなかったのに燃えてしまったの」
シンは舌打ちをしつつ、その火を消すことになった。
●北の墓場
昼の輝きを放った太陽も沈みかける時。
空を深紅に染める夕日は悲しいまでに美しい。
たとえ、それが墓場であってもその美しさは、本来の墓場の不気味さをかき消してしまう不思議な美の力があるようにも思える。
もっとも、墓場に対するステレオタイプを捨てられればと言う条件付きではあるが・・・・。
そんな墓場に、バハトゥーンとバルバロイ立っていた。
「どうやら準備はできたようでだな」とバハトゥーン。
「当たり前よ。とりあえずロレンツォの親父は私の技でメロメロにしたし、すでにあれは私の操り人形だわ」
「フン、ゲスが」
「所詮、快楽主義者なのよ。より心地よいものがあれば何でもいいんだわ。あの種の人間はね。いくら完璧に男装しても女性であれば見破ってしまう特殊な鼻を持ち、醜い男などあれだけ嫌っていた奴でも私の腕にかかればいちころよ。
あとは、お目当ての生け贄は見つからなかったけど、街ごとを生け贄に捧げればあの方もそれなり力も復活させられるでしょうよ。それに、あの方が選んだほどの資質はなくても、一時的な器になる坊やのパッセルも見つけたこと出し・・・・」
「やり方は気にくわんが、あの方の命令ならしかたあるまい」
「あら? 何とでもおっしゃい。ホホホホホ。
さぁ、死してなお私に従う生ける屍達よ、冷たい土の中から蘇りなさい!」
邪神の神官服を着た男の呼びかけに、墓に埋もれた死体達はその姿を現した。その光景は地獄絵図以外の何者でもなかった。
呟き尾形 2007年8月5日 アップ
呟き尾形 2014年7月27日 修正
呟き尾形 2014年11月9日 修正
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