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呟き尾形の哲学講座
第11回 テロリズムについて 

 

 

 

 

 

 

 

 

登場人物紹介
『呟き尾形』:講師・・・のはず
クニークルス:奇妙な物言うウサギ。生徒のはず
「ムーシコス」:音楽の好きな少年。生徒。
《めぐたん》:魔女ッ娘。生徒
【フォルス・テッセラ】:オチこぼれ占い師
※各台詞は、名前を囲んでいる括弧の人


★★★
 たいへんだ〜。
「あ、クニークルス君。前回の講座からずっといなかったけど、今までどこに行ってた
の?」
 そんなことより、大変なんだよ。も〜う、大変すぎて大変なんだ。
『クニークルス。落ち着いて』
 シニョール呟き尾形は知ってるはずだよね。アメリカで同時多発テロが起こったん
だ〜。そりゃ、すごいのなんのって。
 飛行機がビルにどかーんだよ。
「ひこうき? びる?」
《めぐたん。しってる〜。空飛ぶ魔法に。建物の魔法だよね》
『魔法って・・・。まぁ、そうだね』
【テロって、テロリズムのテロですか?】
 詳しいことは知らないけれど、シニョールフォルス。同時多発テロなんだ。
 世界中大騒ぎだ。
 なんたって、飛行機がビルにどかーんだ。
「なんだか、知らないけど、なんだか大変なことに思えてきちゃった」
《むむ、めぐたんもなのだ》
【確かに、大変なことですね。
 テロは、テロを起こした組織の主張や理念を暴力に訴えたり、要人を暗殺すること
を是としている考えですからねぇ】
「でも、ずっと東にある国の皇帝や、西にある国の王様が無理やり力で国民や隣の国
に従わせていることだってあるじゃない。あれはテロじゃないの?」
 そういえば、この白い時計塔のある村じゃ無縁だけど、外の国では、侵略戦争とか
あるよね。
『そうだね。でも、テロと、そういった、侵略行為とは決定的な違いがあるのです』
《なんなのだ?》
『テロの武器は、その武力ではなくて、民衆の声、つまり世論なのです。
 テロルの語源は恐怖ですが、恐怖によって、民衆がテロリストをおそれ、それによ
って、現在の指導者の批判を民衆によって起こすことがテロリストが無差別テロを行
う理由なのです』
 つまり、テロ活動とは現政治体制に対する過激な政治批判なのです。
「でも、政治批判なら、直接政府を標的にすればいいんじゃないの?」
《(○`ε´○)ソーダ、ソーダ》
 めぐたん、ムーシコス君、それでは一時的な政府のダメージで終わってしまうよ。
【クニークルスさんの言う通りですねぇ。
 テロリストは、民衆に被害を与えることによって、民衆は否応なしにテロリストの主
張に関心を持たざる得ないわけですよ。”無差別テロをやめさせるためには、政府がテ
ロリストの要求を飲めばいいんだ”
 自分たちが犠牲になる必要はないと民衆に思わせるんです】
『そう、テロリストの憎むべき部分は、その逆説的に自分の要求を民衆の要求にすり替
えることなのです』
「あ、それって、プロタゴスらのソフィスト(弁論・修辞の職業的教師)たちがつかっ
た詭弁になんか似ているね」
『そうなのです。ムーシコス君。現代と言う時代の価値観は相対化されることによっ
て、テロリストを生み出してしまったのです』
 まった、でも、侵略戦争とテロリストの違いって?
【それはですねぇ、侵略戦争のターゲットは、その国の地の利なのです。つまり、その
土地の支配権から得られるさまざまな利益が目的です。
 その利益は時と場合によって様々ですが、主だった物は経済的利益、軍事的利益とい
うところでしょうかねぇ】
《じゃぁ、テロは何が目的なのだ?》
『それはね。めぐたん。信念です』
《新年?》
『いや、固く信じて疑わない心の方です。
 自分の考えは絶対に正しいと信じるからこそ、何を犠牲にしてもかまわないと言う考
え方から、あんな恐ろしい行為ができるのでしょう』
 たしかに、自己批判を含まない思考システムは押し付けがましくなるものね。
『そうなんです。どんな正しい思想や哲学があっても、自己批判のシステムを含まない
システムはそれ自体が間違いなのです』
《ふ〜ん、でも、無差別テロをした人たちは何の得があるのだ?》
「ぼくも分からないな」
 めぐたんやムーシコス君の言うとおりだ。シニョール呟き尾形。どいうことだい?
『テロの仕組みは、こうです。
 政府にとって、そうした無差別テロは、民衆が人質に取られたのも同然であり、民衆
もまた、そのことに薄々気がついてしまいます。
 テロは当然、無差別ですから、民衆はいつ起こるか分からない無差別テロに怯えなが
ら、無差別テロを許してしまう政府の無能さを感じてしまいます。
 やがて自らの身を守る術の無い民衆は、本来、自分たちの身を守るための政府が、無
差別テロを許す現状に不満を募らせることになり、政府を批判し始めます。
 結果的に政府打倒のテロリストの味方に付いてしまう形になってしまうという仕組み
です。
 テロリストは政府が要求を呑めば次なる脅迫行為に出れば良いだけであるし、飲まな
ければ、テロ活動を続けるだけなのです』
「なるほど、つまり、テロという事件そのものが自己主張になって、自分が正しいと信
じて疑わない信念の宣伝になる。
 そして、民衆を擬似的に人質にとって、自分たちもなんらかの利益を得るわけでだ
ね」
【そう、侵略戦争は経済的、軍事的利益が目的だけれども、テロリストは自分の正当性
を暴力で認めさせる、言ってしまえば、信念的利益が目的なのです】
『本来、こういった、信念的利益は、議論や討論、つまり話し合いによって得られるべ
きなのです。
 経済的利益は本来、侵略戦争などではなく、経営や労働、つまり仕事で得られるべき
であるのとおなじです。だから、テロに対して、武力を持って報復することは、テロリ
ストと同じレベルになってしまうことになりかねないのです』
《ふ〜ん、そうなのか〜》
「でも、報復しちゃいけないってことは、だまってテロを見過ごせって事なの?」
『そうじゃありません。でも、それは哲学とはちょっとちがう視点で考察しないといけ
ないので、今回は話さないで置きます』
 シニョール、呟き尾形、なにを出し惜しみしているんだい?
【いえ、呟き尾形さんは、出し惜しみをしているのではなく、哲学は所詮、あるべき姿
を示唆するだけで、その方法論は別の分野にたくすべきだと考えているんですよぉ】
『フォルスの言うとおりです。
 哲学は、対象の意味を考察する技術であり、それ以上でも以下でもありません。もち
ろん、対象の意味を考え、行き着くところは方法論ですから、全く無関係ではありませ
んが、哲学だけで考えては的外れな結論を導き出すことは簡単に予測できるからです。
もっとも、私の考える本来あるべき姿のイメージは存在します。しかし、それはあくま
で私見であり、哲学講座の本筋とは、ずれてしまうので、今回は披露するのは避けたい
と思っています』
《今回は?》
『はい。もし、読者の中で興味をもたれた方がいらっしゃれば、特別号第2段として、
発行しようと思っています。逆に、特に意見が無い、あるいは、それ自体望まないと言
う意見があれば、次回から10号の続きを進めます。
 今回は、衝撃的な事件がおきたので、特別講座をさせていただきました。
 時代の変動は、哲学の変動でもあるからです。
 さて、これを読んでいるみなさん。なにか質問、疑問点はありませんでしたか?
 もし、ありましたら、ぜひメールにて質問してください。
それでは失礼致します』

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