ボォン ジョルノ、こんにちわ。クニークルスです。
「こんにちわ。みなさん。ムーシコスです」
「今回は、さて、今回は、投稿小説を掲載します。今回読みきりです」
投稿していただいた方は、土屋みかんさん。
「ジャンルはとくに明記していなかったけど恋愛。なのかな」
それじゃ、「向日葵」。はじまりはじまりぃ〜。
作者名:土屋みかん
メールアドレス:fujiko3@spica.freemail.ne.jp
小説の題名:「向日葵」
小説
ひまわり畑の中はまるで意地悪な立体迷路だ。
散歩中に逃げ出した飼い犬の名を呼びながら、
彩は暑さでいらいらしてくる。
「エド!もう知らないからね!」
とうとう短気を起こして彩は来た道を戻ろうとして、
「あれ??」
吹く風がザワザワと頭上の向日葵の葉を揺すった。
・・・急に不安になった。
彼女は自分が天才的な方向音痴なのを忘れていた。
確かトマトが植わっている方が道路側だったような。
でも入ってきたのはトウモロコシ畑からだ。
(どっちに行けばいいんだろう?)
周りは背の高いひまわりが林のように並んでいる。
憎たらしい事、この上ない。
そう言えば前にもこんな事があった。
シンが来る日も来る日も、まるでゴッホ気取りで、
向日葵のスケッチに没頭してあたしを構ってくれないので、
大家さん自慢のこの広い、ひまわり畑に隠れてやったのだ。
あの時はシンが迎えにきてくれた。
(結局、いつだってシンがあたしに甘かった証拠だ。)
でも今日は?
些細な喧嘩が続いた後で、致命的な喧嘩別れをした。
罵るでも非難するでもなく、一言二言で蹴りのつく、
静かに静かに冷たく、自分とお互いを見据えた喧嘩だった。
この一ヶ月、まるきりあたしは放って置かれた。
さすがにもうダメだと思った。
胸の中に、泣けない涙が狂ったように溢れて、彩は空を仰いだ。
・・・暑い!ちくしょう。
アイスクリーム飛んで来い!
カキ氷飛んで来い!
彩はぷりぷり怒って、そして悲しくなる。
シンは自分の事を話さない。あたしはシンの全てが知りたいのに。
シンの絵は饒舌だった。そこに描かれる狂気をあたしは知りたがった。
シンは自分の絵を初めて理解した小さなあたしに、
驚き、喜び、そして恐れ疎んじた。
シンの絵に嘘が混じる。あたしがそれを見抜く。
シンの絵が荒れる。あたしがそれを追い詰める。
シンの絵が沈黙する。あたしが追い討ちをかける。
やがてシンは一度描いた画布に火を点けるのに夢中になった。
点けては霧吹きで消し、乾かしてはまた点ける。
オブジェに逃げたシンを、あたしは見向きもしなかった。
あれから一度もアトリエには行ってない。
寂しい。
あたしはシンの事が知りたかっただけなのに。
セミみたいにワンワン泣けたらいい。
頭が割れるほど、思い切り泣けたら。
15歳の夏が終わろうとしている。
向日葵の花をもぎ取ろうとして、折れなくて。
引っこ抜こうとしても、手が痛くなるだけで。
なんて手強い花なんだ!
まるでシンみたいな花だ。
頭に来るのに、でも好きなんだ。
日が少し西に傾いた頃、ようやく彩は迷路を脱出した。
エドは、とっくに家に帰ってて、
エサまでもらって、のんびり寝ていた。
「もう、何よ!」
蹴飛ばしてやろうと思って、馬鹿らしくなってやめた。
シンと会えない夏。
彩は16の誕生日を迎えた。
ひどく不器用な恋の結末を味わい尽くしながら。
★★★
「ぐすん。彩ちゃん。なんだかかわいそう」
10代後半は多感な時期で、心がさなぎになっている。って、シニョール
呟き尾形が聞いたことがあるといってたね。
「どういうこと?」
外見は変わらないし、大人になろうとしているけれど、殻に閉じこもって、
心が大人になろうと、自分の心(体)を溶かしている様の比喩らしい。
「ふ〜ん、それにしても、描写の一つ一つが個性的だし、主人公の彩ちゃん
の気持ちが現われてくるよね」
同感。
大嫌いでも好き。という気持ちがバシバシ出てきて読者を切なくさせる
と思うよ。
ただ、別れたきっかけの”致命的な喧嘩別れ”にこだわる読者は、その
描写が無いことに疑問をもってしまって、そこの気持ちが伝わりづらいかも
しれないね。あれば、もっと、
「つまり、”致命的な喧嘩別れ”の描写があればもっと、リアリティーがあ
るってこと?」
その通り。とはいえ、これは読者の想像する余地を与える意図的なものか
もしれないから、是非は問えないけどね。
「シン=向日葵というイメージの重ね方は上手だったと思うな」
そうだね。シンが向日葵の絵を描いた事、彩が向日葵と同じイメージを持
ち、付き合っていたときの行動と向日葵に対する行動が同じだったと言うこ
とをさりげなく伝える。
人が恋をしたときの共通の行動だしね。そこにリアリティーがあって、
読者に切なさを感じさせるのだと思うよ。
それではアルデベルチ!
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