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小説を書こう!
第30回
 投稿小説 僕が僕であるために 第6回

 

 

 

 

 

 

 

 

  ボォン ジョルノ、こんにちわ。クニークルスです。
「こんにちわ。みなさん。ムーシコスです」
「今回は、さて、今回は、投稿小説を掲載します。全6回で、予定では週間
で発行予定です。」
 リアリティーのある文章の書き方のまとめ については、ちょっとお休み
です。
「投稿していただいた方は、いるまがわさん。
 ジャンルはSF。これまでいろいろ投稿してくれたいるまがわさんだけど、
ちょっとかわったジャンルだね」
 それじゃ、僕が僕であるためにの全6回の第6回。はじまりはじまりぃ〜。


 作者名:いるまがわ
 ジャンル:SF
 メールアドレス:irumagawa@hotmail.com
 URL:http://www1.s-cat.ne.jp/irumagawa/
 小説の題名:僕が僕であるために(第6回)

「どうなんです? 現スミスさん。調べればわかるのですよ」
「傷が……」
「傷? どこの傷ですか?」
「腹の古傷です」
「それが消えていた?」
「ええ。しかし些細な傷です」
 向こうの丸めがねの弁護士が、顔をしかめるのが見えた。
「それでも以前と全く同じというわけではないですね。あなたは周りをあざむ
いていたのです」
「異議あり! 決めつけです!」
 丸めがねがほえた。
「あざむくなんてそんな……」
「しかし、あなたは自分がクローンであることを知っていた。それでいて、実
感がないとか、事故前と全く変わらないとか主張し続けた」
「そう感じているのだから、仕方がないでしょう」
「あなたのその主張が、オリジナルのスミス氏の権利を侵害しているのです」
 クローンは黙ってしまった。
 裁判長がおごそかに最後の証人を呼んだ。
「では、元スミス氏を証言台へ……」
 僕はゆっくりと証言台に立った。
 目の前に十二人の陪審員と裁判長が見える。
 左手にヒゲの弁護士が、右手にクローンやマーガレットとエイミー、そして、
丸めがねの弁護士がいた。
 空調の調子が悪いのだろうか、少し息苦しい。そして胸が重かった。
 今度はヒゲの弁護士から質問が始まった。
 だが、彼は簡単なことを聞いただけだった。
「あなたは誰ですか?」
「カシウ・J・スミスです」
「なぜ、それがわかるのです?」
「本人だからです」
「オリジナルの?」
「そうです」
 そこで彼は陪審員の方を向いた。
「陪審員の皆さん。人間が何者であるかということは、誰が一番よく知ってい
るでしょうか。それは本人です。ここにはオリジナルのカシウ・J・スミス氏
がいて、物理的にも証明できます。もはや何も申し上げなくとも、彼には相応
の権利があることが明白でしょう。賢明な判断をお願いします」
 ヒゲの弁護士が一礼すると、丸めがねが立ち上がった。
 丸めがねの弁護士は柔和な、そして不思議な微笑を浮かべて近づいてくる。
一歩、また一歩と。
 彼は、陪審員に対して、穏やかに語り始めた。
「陪審員のみなさん。人間が何者であるかということには、違う見解も存在い
たします。そもそも人は一人では生きていけないものであります。他者との関
係において、初めて人は人としてありうるのです。すなわち、人を認知するの
は他者なのです。
 ただいまからそれを証明してご覧に入れます」
 胸が重い……。ここは空気が悪い。
「あなたは、カシウ・J・スミス氏ですか?」
「そうです」
 息苦しい……。
「それでは、三月二十一日にエイミー嬢がスミス氏に送ったプレゼントは何で
すか?」
「なんですって?」
「三月二十一日です。事故の十日後ですよ」
「馬鹿な! 僕はまだ病院にいた」
「おや、答えられない? エイミー嬢は、あなたの退院祝いにあなたの似顔絵
を贈ったのですよ。そうですよね?」
 クローンとマーガレットにはさまれたエイミーが無言でうなずいた。
「それでは三月二十四日にマーガレットさんはスミス氏と映画を観てますが、
そのタイトルは?」
「いいかげんにしてくれ! 僕はまだ入院していたんだ」
「やはり答えられませんか? お二人は名画座で『ショーシャンクの空に』を
観たんですよ」
「異議あり! これらの質問は本件の本質とは無関係です!」
 ヒゲの弁護士が焦りだした。
「却下します。重要な問題と判断します」
 裁判長が身を乗り出す。
「続けます。三月二十五日にはスミス氏は、上司のコンスタブル氏と重要な案
件を話し合いました。その中身は? 三月二十九日にはご家族でハイキングを
楽しんでらっしゃいますが、行き先はどこでした?」
 答えられなかった。僕には何も答えられなかった。
「三月三十一日にスミス氏が奥さんに買った靴のブランドは……」
 質問は続いていたが、僕の耳にはもう何も聞こえなかった。


 僕は灰色の部屋にいる。
 硬いベッドに窓には金網。コンクリの床。
 判決のあと、ヒゲの弁護士は去って行った。
 判決――それは裁判長が言い渡した。
「元スミスをスミス家に対する危険な存在とみなし、シティ圏内からの追放を
命ずる」
 その瞬間、クローンとマーガレットとエイミーは抱き合って喜び、目には涙
が見えた。傍聴席は騒然として、拍手が鳴り止まず、その中で、丸めがねの弁
護士とクローンの”僕”が、がっちりと握手していた。
 ヒゲがいなくなった後、シティが別の弁護士をあてがってくれた。その男は
陰気な感じがして、どこかあのクローン保険の外交員を思わせる男だった。
 めったに面会に来ないが、たまに来るといつも同じことをいう。
「スミスさん。控訴なさっても無駄ですよ。国家が決めた特例措置を御利用に
なったらいかがです? 悪い話ではないはずです。簡単な洗脳を受けるだけで
いいのです。別人として生きることにすれば、自由の身になれて、似たような
仕事も用意されるのですから」
 そして僕は毎回それを拒否する。
 僕が僕であるために。

                           終わり


 あとがきです。

 死んだ人間がよみがえる話というと、スタニスワフ・レムの傑作と名高い
「ソラリスの陽のもとに」がありますが、私は読んでません(ああ、コケない
で)。しかし、それを映画化した、タルコフスキーの名作「惑星ソラリス」…
…も、観てないんですが(ああ、コケないでください)、それをリメイクした
ハリウッド版「ソラリス」なら観ました。
 ちょうどそのころにこの小説のアイデアが出まして、えーやんか、えーやん
かとメモりました。ところがです。ある日、何十年もまえのメモ書きをぱらぱ
らと見ておりますと、そっくりなアイデアがあるではないですか。なんのこと
はない、忘れてたアイデアを思い出しただけだったのです。
 それでも新旧のアイデアの相違点も結構ありました。昔のメモだとSide:A
から見た、つまりクローンの側が主役になってました。”オリジナルに訴えら
れる話”だったわけです。タイトルも「ワレ思フユエニワレアルカ」というけ
ったいなものでした。新旧両方のアイデアを合体してできたのがこの小説とい
うわけです。
 さて、SFでは”すでに書かれていない話は存在しない”と申します。当然、
この小説にそっくりな話もあるかも知れません。ご存知の方がいらっしゃいま
したら、いるまがわまで、御一報ください。






★★★
「僕が僕であるために。かぁ〜。自分って何かわかんなくなっちゃうな」
 まぁ、これについては、哲学の分野かもしれないね。
「うん。でも、やっぱり、自分は自分だよね」
 う〜ん、それでも、たまには見つめなおしてみるのもいいんじゃないかな。
『そうですね。
 ”僕が僕であるために”は、いろいろな意味で良い作品だと思いますね。
 一人称で、別々の視点を語るという点では新しさを感じましたし、クローン
保険というアイディアは、私にとって斬新でした。
 そして、良い意味で読者に予測させない展開は、いるまがわさんのセンスの
良さですね。
 ただ、自分の問題であるはずなのに、主人公があまりにも淡々として、他人
事っぽく描かれていて、突然感情的になるのには、ちょっと違和感を覚えまし
た。
 もちろん、この点はいるまがわさんは、きちんと計算していて、弁護士が登
場したところで、この弁護士に任せるしかない。という割りきりがあって、ど
こか主人公はあきらめていたところがあったわけですね。
 だから、淡々となれた。という流れは説得力を感じつつも、やっぱり自分の
問題だし、家族を失い、物語の最後になっても洗脳を拒否するくらい自分とい
うものにこだわっているところの説得力がいまひとつ感じられなかったように
思えるわけです。
 ここは、一人称の難しさですね』
 まぁ、呟き尾形の独り言は、さておいて、いるまがわさんからの問いかけ、
つまり、”この小説にそっくりな話もあるかも知れません。ご存知の方がいら
っしゃいましたら、いるまがわまで、御一報ください”とのこと。
 ちなみに、シニョール呟き尾形は、そっくりというものは知らないそうです。
 これを読まれているみなさんはどうですか?
 それじゃ、アルデベルチ。
 



 


 



 


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