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小説を書こう!
第38回
 投稿小説 ラルサとムアウ(第3回)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★



 ボォン ジョルノ、こんにちわ。クニークルスです。
「こんにちわ。みなさん。ムーシコスです」
『こんにちわ。呟き尾形です
「今回は、前回に引き続き、ラルサとムアウの全3回の最終回です」
 はじまりはじまりぃ〜。

 作者名:いるまがわ
 ジャンル:戦争童話
 メールアドレス:irumagawa@hotmail.com
 URL:http://www1.s-cat.ne.jp/irumagawa/
 小説の題名:ラルサとムアウ(第3回)

 村の南の森には、むかし使われていた目だたない小屋があった。つたやかず
らがはい茂り、やしの葉で屋根がななめにつくられていた。
 ラルサはムアウをその小屋にかくし、日がのぼるまえに村へもどった。
 夜が明けると父がさわぎだした。
「ムアウはどこにいる。」
 あちこちさがしたが見つからない。
 父はムアウが逃げ出したとおもった。そこでラルサにカブトムシを一匹つか
まえさせた。そして地面に木のくいを打ち、くいにひもをつけて、ひもの先を
カブトムシのつのにくくりつけた。
 カブトムシはくいの回りをまわるしかない。ひもは巻きとられ、だんだんと
くいにひきよせられていく。ついにはくいの近くで動けなくなってしまう。そ
れは人間をさがすときのまじないだった。
「村の中でかくれていそうなところはすべてさがせ。村の中にいなければ、村
の外までさがせ。」
 父はどれいたちに命じた。
 ラルサはこのままではムアウが見つかってしまうとおもった。つかまれば、
どんなことをされるかわからない。そこで誰にも見られないように村をぬけだ
し、ムアウのいる小屋へむかった。
 小屋につくと、ラルサは首から、あの母にもらった赤い石の入ったバオバブ
の葉の輪をはずした。
「これを身につけるのだ。かならずムアウを守ってくれる。」
 あれから何年もたつのに、バオバブの輪はあおあおとしてどこも枯れていな
かった。
 ムアウがそれを首にかけると、ラルサは村へもどっていった。
 ラルサの父とどれいたちは村中をさがしたがムアウは見つからない。村のま
わりもぐるりとさがしたが、結局ムアウを見つけることはできなかった。
 ラルサがあのカブトムシを見にいくと、ひもが切れたらしく、どこかへ飛ん
でいってしまったようだった。ラルサは安心した。
 それからは、ラルサは日が暮れると水と食べものを持って村をぬけだし、ム
アウの小屋へかよった。
 ある夜のこと、ラルサが沈んだ顔をしているのを見て、ムアウがたずねた。
「なにかよくないことでもあるのですか。」
「いくさに出なければならない。」
 ラルサがため息をついた。
「東のほうの村から敵がやってくるといううわさがひろまっている。先手をう
って、こちらから戦いにでるのだそうだ。」
「それではこれを……。」
といってムアウは赤い石のはいった輪をわたそうとしたが、ラルサはこばんだ。
「東のやつらはことばもつうじない敵だ。どんなことにならないともかぎらな
い。この輪の中の赤い石は、けっして手ばなしてはいけない。」
 そういって、ラルサはムアウの首にバオバブの輪をかけた。
 ひさしぶりに戦士となったラルサは、村の女どれいたちのうち、信用のおけ
る何人かに、ムアウのことをたのんだ。ムアウには食べものと水が必要だった
のだ。どれいたちはムアウに同情していたから、こころよくひきうけた。
 そうしてラルサとラルサの父をはじめ、多くの男たちが戦士となって村を出
て行った。
 東への道は森の中だった。
 ラルサはいつものように先頭をあるいたが、心の中はおもかった。この日は
赤い石を身につけていなかったからだ。
 うしろの男が笑いだした。
「敵をおそれているのか? ラルサ。おれを見ろ。こうすれば矢もやりもおれ
にはあたらない。」
 男の胸にはカエルの皮がはりつけてあった。つるつるすべるので、とがった
ものが当たらないというまじないだそうだ。だが、いまのラルサにはたよれる
ものは何もなかった。
 森を出たところで、ラルサたちは奇妙なものをみた。楕円形の大きな板が、
無数につらなっている。よくみると、板には人の顔がかいてあった。
 みな、それがなんなのかわからず、ぞろぞろと森のまえに出てきた。
 つぎの瞬間、そらをなにかがおおった。そして矢が雨のようにふりそそいで
きた。戦士たちはばたばたとたおれた。ラルサの肩にも矢が当たり、ラルサは
悲鳴をあげた。
 楕円形の板がうごきだした。板はたてだったのだ。たてのあいだから無数の
長いやりが突き出され、大地をゆるがすようなおたけびとともに、こちらへ突
っこんできた。
 ラルサはおそろしさのあまり、うしろのしげみにころがりこんだ。ラルサの
右や左の男たちはつぎつぎと敵のやりに突きたおされた。恐怖にとらわれた男
たちは森へ逃げこんだが、敵は男たちを追いかけて走りだした。
 地面にふせたラルサのよこを、おびただしい数の敵のサンダルがかけぬけて
いった。いったい何人いるのか、ラルサには見当もつかなかった。
 村へいちはやく逃げ帰った男の口から、いくさに負けたことが伝えられた。
女どれいたちはムアウのところへ知らせにいった。
 ムアウは首にかけた輪の結び目をほどき、バオバブの葉をひとり一枚づつ、
女たちにあたえた。きっと、みんなの身をまもってくれる。ムアウは小さくな
った輪をうでにつけた。そして、ラルサのことをおもった。
 敵の気配がなくなってから、ラルサは起きあがった。肩に激痛がはしった。
 まわりをみまわすと、みな、たおれていた。腹から真っ赤な血をながして目
をむいている男は、胸にカエルの皮がはってあった。
 胸をさされたもの、頭を割られたもの、ひとりひとり見ていくと、父がいた。
 ラルサには父が死んだなど、にわかにはしんじられなかった。だが、胸や腹
など何か所もさされて血を流し、苦痛にゆがんだ顔は目を見ひらいて、目玉の
うえにはハエがとまっていた。
 ラルサは村のこと、ムアウのことが心配になってきた、森の中を村へむかっ
て走りだした。
 逃げおくれた戦士たちのよこをラルサはかけぬけた。みな死んでいる。一人
二人三人……、死体をかぞえながら走ったが、すぐに数がわからなくなった。
 村へたどりつくと、村は静まりかえっていた。あちらこちらに死体がちらば
っていて、動くものがない。バオバブの木の下で、長老が死んでいるのを見た。
死体はほとんど男たちだった、女はつれさられたにちがいない。
 ラルサはムアウの小屋へ走った。小屋の中はめちゃめちゃに荒らされていて、
ムアウはどこにもいなかった。
 地面にひきちぎられたちいさなバオバブの輪がおちていた。ラルサはその中
から赤い石をひろいあげた。ラルサがムアウに会うことは二度となかった。

   おわり


 あとがきです

 今年の夏、戦争とは何か考えていた私は、ジョン・キーガン著「戦略の歴史」
という本に出会いました。そこで書かれていた、戦争とは文化であるという考
え方に、目からうろこが落ちる思いがしたものです。この考えならば、戦争と
いうものが抱えているあいまいな性質が説明できるからです。
 「戦争を根絶させるのは不可能だ」と力説するのは愚かなことですし、「戦
争は人々の努力でなくすことができる」と断言するのも安易です。また、原初
の戦争はゲームのようなものだったという、ユートピア社会を論じる学者もい
れば、人間を一定の数に保つ合理的なシステムが戦争だったという学者もおり、
あるいは、人間の爪と牙は無意味に血にまみれていたと主張する学者もいます。
それらは、戦争とは文化であるという考えから納得できるのです。様々な形を
とるのが文化なので、一様に言えないのは当然なわけです。
 そのようなことを考えているうちに、私の中に、「ファンタジーが踏み潰さ
れる話」を書いてみたいという欲求が生まれました。現実を書くための一つの
方法として有効ではないかと思ったわけです。しかし、そこからがなかなか話
が思いつきません。
 これって「禁じられた遊び」ではないかと思い、わざわざビデオを借りて観
たのですが、特に得るものはありませんでした。あの映画は何をいいたいので
しょう。
 結局、近道はないと思い、フレイザーの「金枝篇」をあたりました。そこで
拾ったさまざまなアイデアを組み合わせてできたのがこのお話です。






★★★
「戦争は文化だっていうのは、なんだかしっくりこないなぁ」
 いやいや、著者のいるまがわ氏の言うように戦争を一つの文化として考えれ
ばしっくりくるはずさ。
「どうして? 文化っていえば、なんかいいイメージしかないけど」
 たとえば?
「道徳とか、便利になることとかじゃない?」
 それもそうだけど、それだけじゃないってこと。文化というのは、その社会
における共有される価値観さ。だから、戦争はもちろん、差別も文化だとも
いえるのさ。
「う〜ん、やっぱりしっくりこないなぁ」
 まぁ、それはいるまがわさんのあとがきを読んだ後、もういちど、ラルサと
ムアウを読んでみるといい。
 戦争は文化だ。ということを念頭に読んでみると、しっくりこないことが
なんとなく判るかもしれないよ。
「そういう、クニークルス君はわかっているの?」
 いいや、だって、戦争っていいことだと思わないもの。
 でもね、世の中、善いことだけじゃない。だから、冷静に物事を見つめる
為には、頭をぐんにゃりやわらかくしないといけないような気がするだけさ。
『そうですね』
 わ、びっくり。シニョール呟き尾形。
『なにも、そこまでびっくりすることはないでしょうに。
 まぁ、それはさておき、現実を見つめるということは固定観念をいったん
捨て去らないといけない。ともいえることですね』
 というわけで。それじゃぁ、アルデベルチ。




 




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