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英雄の為の序曲
 子供たちの狂詩曲 1

作品紹介

プエルギガス年代記 子供たちの狂詩曲 1

 どこまでも高い蒼天を眺めると、いつまでも空は青いように感
じられる。
 それでいて、空は大地と接し、手が届くようにも思えた。
 少年は小高いこの丘から、地平線の先から反対側の地平線まで続
く赤い線を眺めた。
 少年の名前はカーズ。
 カーズは、どこまでも続く赤い街道も、いつまでも不変のように
思えた。
 この街道の名は、北の街道という。
 ケオティッカ帝国を縦断する街道の総称である。
 赤い街道を通るように冬を運ぶ北風は、まだ遥か遠くで足踏みを
しており、赤いレンガで整備された街道は、純白の雪と寂しさで埋
め尽くされることはなかった。
 カーズは地平線の向こうからやってくる影を見て好奇心に目を光
らせた。
「カーズ! そこにいたの! 最近は、男の人でも戻らないことが
あるんだから、あんまり遠くには行かないで頂戴」
 今にも走り出しそうなカーズを呼び止めるのは、女性の声だった。
 その声は、注意はしているもののやさしげだった。
「あ、リージャのお姉ちゃん!」
 カーズは満面の笑みで返事をして、リージャの方を見る。
 リージャは野に元気に咲くたんぽぽと言うより、砂浜にひっそり
咲くアマリリスのような印象の娘だった。
「すごいんだよ。ねぇ、リージャのお姉ちゃん。きてよ!」
 カーズは、自分が発見した影を得意げに指差す。
「なにがどうしたの?」
 そういいながらゆっくり、必死にリージャは丘を登ってくる。
 カーズはリージャが来るのが待ち遠しくて何回も手招きした。
「まったく、もう。なにがどうしたって・・・まぁ・・・」
 リージャが丘の天辺に登っていった言葉がこれだった。
 街道には、一糸乱れぬ隊列で行進する軍隊が地平線の向こうか
らやってくるのである。
 旗印は、ケオティッカ帝国最強の騎士団であることを示す、雷
の槌が力強くはためいている。
「もしかしたら・・・」
 リージャは誰に言うでもなくそう呟いた。

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