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小説を書こう!
第28回
 投稿小説 僕が僕であるために 第4回

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボォン ジョルノ、こんにちわ。クニークルスです。
「こんにちわ。みなさん。ムーシコスです」
「今回は、さて、今回は、投稿小説を掲載します。全6回で、予定では週間
で発行予定です。」
 リアリティーのある文章の書き方のまとめ については、ちょっとお休み
です。
「投稿していただいた方は、いるまがわさん。
 ジャンルはSF。これまでいろいろ投稿してくれたいるまがわさんだけど、
ちょっとかわったジャンルだね」
 それじゃ、僕が僕であるためにの全6回の第4回。はじまりはじまりぃ〜。


 作者名:いるまがわ
 ジャンル:SF
 メールアドレス:irumagawa@hotmail.com
 URL:http://www1.s-cat.ne.jp/irumagawa/
 小説の題名:僕が僕であるために(第4回)

 僕は灰色の部屋にいた。
 硬いベッドに窓には金網。コンクリの床。ドアは病院のそれとは違い、重い
金属製で小さな差し入れ用の窓がついている。
 その窓から、僕が頼んでおいたものが放り込まれた。
「新聞だ」
 拾い上げると、プリントアウトされたばかりでインクの匂いがした。
 一面に、今回の事件が載っている。
『クローン保険に重大な欠陥』
『どちらが本物? 裁判へ』
『家族はクローンを擁護』
 最後の見出しに、しばし目をとめたあと、僕はコラムの方を読んだ。そこに
は人ごとをからかうような調子で文章が書かれていた。
 いっそのこと、妻や子どものクローンも作って二つの家族を作ってはどうか
とか、いや、それでは財産や仕事は分割できないから無理だとか、いろいろと
無責任な記事だ。
 しばらくしてドアの小窓が開いた。
 警官の鋭い両目がのぞく。
「ミスタ・スミス。面会人だ」
 部屋に入ってきたのは、鼻の下にヒゲを生やした、たまご顔の男だった。口
元がにやついているが、目つきが油断ならない。
「ああ、騒がれてますね」
 彼は新聞を見た。
「私は弁護士で、ハックマンという者です。あなたはこれから裁判になる。私
がお手伝いしましょう」
 そういって彼は新聞を見てにやにや笑い出した。事情はすべて知っていると
いうように。
 このように話題になる事件が起こると、必ず売名を目的とする者が群がって
くる。それは僕も知っていた。だが、この男にまかせる以外何ができよう? 
シティがあてがってくれる弁護士は一人で何十件もの事件を同時に抱えている
ような連中だ。そんなのよりはましかも知れない。
 裁判所は、天秤を持った女神の像の下を通って入る。
 十二人の陪審員と裁判長が僕を迎えた。
 薄緑色の床の上を歩き、彼らの左側へ座ったとき、正面にもう一人の僕――
いや、僕のクローンが見えた。クローンの隣にはマーガレットがいて、不安そ
うな顔をしている。その隣にはエイミーもいた。
 突如、裁判長の槌音が響いた。
「これより、カシウ・J・スミスがカシウ・J・スミスを住居侵入及び障害未
遂で告訴した件と、やはりカシウ・J・スミスがカシウ・J・スミスに対し、
妻子及び財産の返還を求めて訴えた件の審理を開始する
 なお、便宜上、現在スミス家にいるスミス氏を『現スミス』。留置されてい
るスミス氏を『元スミス』と呼ぶことにする」
「それは承服しかねます。裁判長!」
 ヒゲの弁護士がさっそくかみついた。
「現スミスとか元スミスという呼び名は、陪審員に現状肯定の予断を与えます。
真実からいえば、こちらのスミス氏を『オリジナル』と呼び、あちらのスミス
氏を『コピー』と呼ぶべきです」
「異議あり!」
 こんどは向こうの弁護士が叫ぶ。
「オリジナルだのコピーだのという呼び名は陪審員の意識を誘導する意図があ
ります。『現スミス』『元スミス』という呼び方は、両者の現状について認識
してもらうのが目的であり、妥当と思われます」
「異議を認めます」
 当然という顔で裁判長が答える。
 してやられたらしい。ヒゲの弁護士は苦々しい顔をした。
「では最初の証人を……」
 証言台に立ったのは僕の上司だった。
 向こうの弁護士はゆったりと立ち上がり、丸めがねに触れながら穏やかな顔
をした。
「コンスタブルさん。あなたのご職業とスミス氏との関係を説明していただけ
ませんか?」
「私は――ええとその、ターナー建築事務所の主任をしております。スミス君
はわが社の優秀なデザイナーです」
「そのスミス氏ですが、事故のまえとあとで、何か変化はありましたか?」
「ううん。特にこれといって……」
「仕事ぶりはどうです?」
 向こうの弁護士は丸めがねを上げる。
「それはもう、以前と同じく優秀です。彼を指定してくるクライアントが多く
て、順調に仕事をこなしています」
 丸めがねは陪審員の方を向いて満足そうにうなずいた。
 ヒゲの出番が来た。彼は鋭い目つきで証人を見た。
「ミスタ・コンスタブル。スミス氏が事故後に出社した時のことを覚えていま
すか?」
「はいそれは……。事故から一週間して無事に退院してきました。普通のよう
すでしたよ」
「その時、彼はコピーに入れ代わっていた。それは知っていましたか?」
「コピーではなく現スミス氏といってください!」
 丸めがねが叫んだ。
「どうなんです。コンスタブルさん」
「それは……。知りませんでした。そういうことは人事で処理しているもので
して。私は事件が報道されてはじめて彼が……その、クローンだということを
知りました」
「すると、最初から彼がクローンであったことを知っていれば、あるいは以前
の彼との違いを発見できたかもしれないわけですね」
「異議あり! 誘導尋問です。裁判長!」
「異議を認めます」
 裁判長がうなずいた。
「言い方を変えましょう。あなたは彼がクローンだと知らなかった。あなたが
彼を観察した様子も、あなたが彼ととったコミュニケーションも、その、『知
らなかった』結果だとは言えるでしょう?」
「それは――その通りです」
「これで終わります」
 ヒゲの弁護士は得意げに引き下がった。
「次の証人……」
 次の証人はマーガレットだった。彼女は証言台でチラチラと不安げに僕のほ
うを見た。しかしクローンが笑いかけているのに気がつくと、落ち着いた表情
になった。そのクローンのそでをエイミーがしっかりとつかんでいる。





★★★
「わ〜、びっくり。裁判になっちゃった」
 そうだよね。なんだか、良い意味で読者の期待を裏切ってるよね。
「法廷でもなんか緊迫感があるし。でもなんだか、sideBの主人公、なん
だか不利だよ〜。
 実際、オリジナルとコピーなのにそれが認められないって、なんか、おかし
くない?」
 まぁ、それは僕も感じる。 
「ああ、sideBの主人公。なんとか勝って欲しいな」
 それは次回のお楽しみ。それじゃ、アルデベルチ。
 


 



 

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